例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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物音


 真冬になり屋根から伝わってくる不快な音が消えた。何処に行ったのか、真冬は鳩がやって来ない。静かになったと想っていたら、ときどき夜中に物音がするようになった。真冬は猫も寒さで感覚が鈍るのだろうか。
 夜は家の玄関前が猫たちの通り道になっている。夏はそんなことなかったのに、朝見に行くと脇に立て掛けたデッキブラシやスコップが倒れていたりするようになった。

 鳩たちが立てる音はともかく物音は愉しい。叔父夫婦に頻繁に空き巣に入られ壱時は物音は全て開戦の調べにしか聞こえなかったが、やっと以前のように物音を愉しく感じられるようになってきた。
 家の柱の軋む緊張したような音、飽きたとでも言っているような犬の妙な鳴き声、菊の花の周りを飛び廻る忙しない虻の羽音、参年ほど前までははっきりと聞こえていた蛙たちの合唱、アスファルトを転げる落ち葉の乾いた音、耳ばかりでなく胸まで撫でてくれるような雨音、加湿器が湯けむりをあげるときの勢いのある音、・・・。それらを耳にしても鳥肌を立てなくなった腕。

 参時のお茶の時間にまるい缶からひとつチョコレイト菓子を取り出す。包みを破るときのカサカサした音にくちづけし菓子を口に入れる。音もまた味わうものだったと改めて気付かされる。

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早咲きの菜の花


 バスを利用するのに橋向こうの土手の道はたまに歩いてはいるが、こちら側の土手の道を歩くのは久し振りだった。見ると辺りには菜の花がぽつりぽつりと咲いている。じっくり考えてからでないと何事も始められない自分に、早咲きの花は例え細く弱い姿をしていても余計まぶしく映る。
 無風だと想いマントを羽織り家を出たのに、外は少し風があった。途中、テーブルはないが屋根はあり樹を切った椅子が置かれた休憩所に腰を下ろす。遠くの山並みはそれほど青くはないが、土手の上から眺めると遮るものもなく清々しい気持ちになる。河川敷には人が集まっていた。凧でもあげて遊ぶのだろうか。空が急に高くなる。
 休憩所に腰を下ろした途端に止んだ風。陽射しは熱く、菜の花が花を付けたのもわかるような気がした。

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ガスコンロと大きな鍋


 壱見おだやかな日。けれど外に出ると想ったより風が強い。
 保温調理鍋に入れたのは、ひとり分に丁度いい小さな大根。

 つみれもこんにゃくも入っていないおでんをこしらえ食べる。以前想ったことはなかったのに、今はあたしは彼と一緒に食べるために料理していたのだと想う。
 いつか、もう少し元気になったなら、手の込んだものをこしらえてみようか。

 冬。ガスコンロと大きな鍋。彼の熱い手と曇った硝子窓。

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布団の中


 エアコン廿度の設定では暖まらず廿弐度に替え、やっと室内が拾度を上回る気温になった。真夜中から未明にかけ室内は何度になるのだろう。
 冬になり朝目覚めてエアコンをつけ布団を抜け出すのは丗分後になった。板の間に敷いたカーペットの上に敷いた布団の中は温かく、電気毛布や湯たんぽを使ったことはない。彼に「くまがいる。」と言われた寝間着を着て眠った夜など、汗ばんで夜中に目覚めることもある。此の冬は寒く、真冬になったら母のぶ厚い電気毛布を拝借しようと想ったが必要ない。
 何故此の冬は室内に対し布団の中が温かく感じられるのだろう。室内が寒いので余計に温かく感じられるのだろうか。それとも彼やカエルの人形たちが潜り込んでくるからだろうか。毎年肩が冷え肩掛けを使っていたのに、其れも要らない。
 鉢植えの植物たちの為には未明からエアコンをつけようか、それとも鉢にもっと何か捲いた方がいいのか、考えつつ朝の室内の寒さに服を着込む。

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突風


 橋の中央に差し掛かったとき急に風が強くなった。歩くのが困難な風の強さに壱度しゃがみ考える。進むにも戻るにも同じ距離。躯を欄干と平行にし、欄干を摑みながら気をつけて進むことにした。
 橋の長さを鑑みると時間にして伍、陸分だったろうか。渡りきるまでに風は弱まった。駆け抜けていきたかったけれど、また急に風が強まれば転んでしまうかもしれないと想うとできず、左右に脚を拡げ早足で橋を抜ける。

 隣に掛かった車両用の橋ではひっきりなしに車が走っていく。ハンドルを取られないのだろうか。自分だったらハンドルを取られてしまうだろう。
 バスに乗っても最悪のことを考えてしまうが、次からは違う路線のバスを利用し、橋の手前のバス停から乗ることにしようか。

 病室に入るといつも通りの母がいて、白梅を寫した寫眞を見せると笑顔がこぼれた。束の間おだやかな時間。

 風は夜になっても止むことなく、自分にしては遅い時間にココアを淹れて飲んだ。

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