例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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チューインガム


 相も変わらずローリング・ストーンズの流れる部屋で、久し振りに買ってきたチューインガムの包みを開ける。そして物凄い勢いでチューインガムを噛む。
 まるで仕留めた草食動物の骨を砕く鰐のよう。信じられないほどの強い力で。噛んで、噛んで、噛んで、・・・。そのうち味がしなくなってもそのまま強い力で噛み続ける。
 道理で毎日疲れる筈。けれど、止めることができない。噛むのに疲れたならきっと自然に止まるだろうから、それまで嚙み続けるだけだなんて想っては参時間が過ぎていこうとしているところ。いつのまにか包み紙の模様が変わり驚くほど素敵になっていることに、少しなぐさめられて。
 なんか、あたしってさ、時々歯車の位置がずれたみたいになるの。と、此の間観た古い映画の中の女性のような口調でつぶやいてみては笑う。チューインガムを噛んだままで。
 チューインガムを包んでいた銀紙を「FOOL TO CRY」が滑っていく。生きるってさ・・・。そうつぶやこうとしてよしておいた。

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 ポットに残った湯を冷まし、ボトルにあけ冷蔵庫に入れる。其れが寝る前の此の頃の日課。
 冷たい水がなんとか飲めるようになってきた。水道の蛇口からコップに注いだ水と同じくらいおいしくなりつつある。
 陸月になったなら、交換用の浄水カートリッジが届くだろう。前回と異なりそこまで心待ちにしていない自分に笑う。

 水が喉を通り躯に落ちたと想える或の瞬間が好き。此の世の清らかなもの全て躯に入ったと勘違いするような瞬間さえ時折訪れるのがいい。熱くても冷たすぎても、瞬間は来てくれない。

 蛇口の下に腕を伸ばし、取っ手をあげる。肘の辺りから指先まで流れ落ちた水に、生き返るなどと口にしてはふぅぅっと息を吐く。
 そうしては海へ行きたいと言って濡れた手で足首をさわる。暗さに物の輪郭が曖昧になった夜の中で。

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切り花


 花屋で求めたのでなく、農家さんが摘んだ花を花瓶に活けるのには、安価な分手間が掛かる。うっかり忘れて萎れてしまった紫陽花は、花ごと水に浸けておいたところ元気を取り戻してくれた。
 それでなくても紫陽花は活けるには繊細で、葉は少なめに、茎は斜めに切り中に詰まった白いものは除いて、花瓶に活けたら時折霧吹きをして、と言った具合に注意しないと壱週間持ってくれない。水を替える都度茎の先を切る必要があるダリアのように、高さがなくなり最後はどの花瓶に活けるかで悩むことはないのだけれど。

 それにしても危害を加えてこない相手のことで悩んだり考え込んだりするのは、なんてせつなく混じり気のない気持ちにさせられるものなのだろう。
 未だに過去の嫌なものがみつかる家で、眉間に皺をよせたあと、花瓶に活けた花を眺めながら気持ちを整えている。

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豆苗


 食べた後に残った豆苗の根の部分を水に浸けておくと確かに新しい芽が出てくるけれど、弐回目に育った苗は緑も味も薄く感じられる。水に浸けて芽が出るなら植えてもいいのかもしれない。
 そう想い昨日紫陽花を挿した隣りに植えてみた。果たして芽は出るだろうか。何処まで育つだろう。
 以前朝顔が育った場所なので朝顔の種を蒔こうかと考えていたのだけれど、朝顔の葉にアレルギー反応が出るのを想うと、手袋と薬と・・・用意してと考えているうちに伍月も終わりになってしまった。
 アマリリスは終わってしまったけれど、ゼラニュームやベコニアの莟が次々と花開き此の夏のにぎやかになりそうな玄関の周り。豆苗の緑も足されたなら、もっと愉しいことになるだろうか。

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異なる種


 川沿いから野薔薇もセンダンもオオツルボの花も消えてしまい、久し振りで買ってきた花を花瓶に活ける。紫陽花に白と紅のシモツケにオレンヂ色をしたダリア。紫陽花は土に挿したら根付くと聞き、壱本選び家の角に挿した。花や種を持ち込むのは人も鳥も変わらないな、などと想ってしまう。

 昨日土手の道に落ちていたと想い見ていた、茶色のふわふわとしたまるいものを思い出す。何だろうと想っていると草の中に消えてしまった。すぐ傍の草の中には灰色の毛をした(たぶん)イタチがいたので、イタチの子供だったのかもしれない。
 見えなくても草の中にはイタチもいれば雉もいて時々飛び出してくる。ホトトギスや雲雀の声も聞く。彼らを驚かしたくなく、ましてや住処を侵したくもないけれど、花を摘むのも枝を折るのも樹に登るのもあたしの暮らし。喰ったり喰われたり撃ったり撃たれたりもないけれど、猫たちのようにはいかないな。

 異なる種。かぶる領域。争いたくもなければ、馴れ合いたくもない。

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