例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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記念日


 町のケーキ店は休業日だった。花も欲しかったけれど、食料量販店を覘きふたりの記念日にと苺だけを買った。それから夕食に天麩羅と捌割蕎麦を。
 これからはつつましくふたりで過ごしていくんだ・・・。最後はそんなふうに終わるのだったろうか。小山卓治の記念日と云う歌を久し振りに頭に描く。

 もうすぐ終わりそうなアマリリス。これからはアマリリスに伍月を想うようになるのかもしれない。
 少しづつ上書きされていく過去。其処に変わらずに彼がいる。此れが後ろ向きなことなのか前向きなことなのか判らない。其のとき其のときをだいじにして過ごす日々。

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古い道具


 塵に出す段ボールを置いていたガーデンラックをばらすことにした。網目状の板を繋いだ金具を六角レンチを使い外すが、忌々しくも所々針金で捲いて止めてある。叔父の持ち込んだものは使い勝手が悪く厄介なものばかりで不快になる。
 道具入れにした鋳物のバケツを漁り、みつけたのが古いペンチだった。確か此れで父は針金を切っていたと想ったが・・・、と使ってみると何重もに捲いてあった針金はいとも簡単に切れた。
 見ると薄っすらと青いペンキが乗っている。此れも叔父が・・・と想うと、居ても立ってもいられず、砥ぎ石で落とすことにした。赤錆だらけになってはいるが、使いやすく切れもいい。先の形が随分今のものと違うが、どれくらい前のものなのだろうと調べると製造された年月はわからなかったが、ペンチでなく釘抜きや爪切りにも似て名前さえわからなくなってしまった。

 邪魔なものをばらし隅に片付け、廣くなった水槽置き場の中で亀たちが無防備よろしく石の上に乗り手足をだらんとさせている様子を見て、倖せな気持ちにさせられる。
 飼われている亀に自分で用意できるものはないが、彼らにもお気に入りはちゃんとある。
 直径壱ミリの青いペンキの跡さえ不快になるあたしの気持ちを叔父がわからないのはかまわないが、勝手に他家のあちこちに手を加えるなどあり得ない。

 各々の家の各々の物の揃え方や使い方、手入れの仕方。納屋に展示物のように父が並べて置いていた道具を想う。
 父も使っていた名前のわからない古い道具は、針金切りペンチとでも呼ぶことにし使い続けていこう。

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気掛かり


 母の移転先の病院へ自転車で出掛けた。丗分あれば着く筈だったが、案の定道に迷ったうえ、いつの間にかアイフォンの明るさの設定が変わっていて地図が見られないことになった。方角と大通りに出ればいいことはわかっていたので、なんとか辿り着くことはできたが。
 入院についての説明を受け、衣類やタオル類など入院セットに選択はなく同意し申し込めばいいだけで、面会も週壱に決められているとわかった。こちらから向かうバスは日に数本しかないが、丁度面会時間の頃に壱本あった。そして帰りのバスが壱時間に壱本あることに驚く。
 こちらでお世話になるつもりで説明を聞きにきたのだと伝えると、夕刻になり受け入れ日が決まった連絡が入る。

 家では、先々電動ベッドや車椅子などをレンタルすることと訪問介護も頭に入れ、壱階の半分を母が使う部屋に充て過ごしていた。
 いずれ車椅子で生活するためにと、壱度目の改装時で母が選んだ車椅子用の床板に座り、母の汚した寝間着やタオルを洗濯するのもあと壱、弐回のことだろうと想った。それとも想像を超え、壱度戻ってくるだろうか、などと。
 母のこれからに自分にも幸い金銭的にも負担はなく、頻繁に会えないことだけが少しの気掛かり。

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西日の時間


 人づきあいに於いて特に疲れを感じる人は相手に良く見られたい傾向がある、と書物には大抵記されている。
 少なくとも自分の場合他人に対しての警戒心と緊張感が強い為であって、酷い時は躯がふるえる。まるで人慣れしていない動物のようだと想う。
 それから時には相手の気持ちに疲れてしまう。愚痴に悪口、頼み事は受けられないとわかってから聞く耳を持たなくなった。

 台所に西日が入る時間だった。強い眠気があり手折れるように座椅子にもたれかかったところまでは憶えている。
 目覚めると伍時を過ぎていた。西日はまだ残っていて、茶色のレエスのカーテンを麦色に変えていた。冷蔵庫から出したクリイムチーズのプリンは味が濃厚で、夕食は此れとアボカドとブロッコリー、玉葱の酢漬けのサラダで済ませる。

 彼と暮らしていたことは奇蹟のようなことだったのかもしれない。
 彼に話し掛けては平静を取り戻す。そうしては名前を呼んでほしくて時々聞こえないふりをする。

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整理


 今日も廻ってきた回覧板に、行政区総会についての委任状をお願いするメモ書きが入っていた。数枚重なった委任状に参加するのは班長さんともう壱件のお宅しかないことが自ずとわかった。
 至急と判が押されてあったので一応目を通し委任状を書き、(うちが最後なので)班長さんの家の郵便受けに落としてきたけれど、適当でいいのねと想ったら笑ってしまった。絶対こうしなさいと細かく指図する者がいると疲れるし、嫌な気持ちにしかならないのでよかった。

 今日は叔母も母の見舞いに来ると聞いていたが、叔母は来なかった。そんな気がしていた。壱昨年母の家に来ると言い来ずに連絡もなかった。其の前にちょっとしたことがあり、あたしの中で決定打になった。
 感情で白黒つける者に事実は見えてこない。相手が離れたように、自分もそっと離れていけばいい。(ただ失礼なことはしないよう気をつけたい。)

 花束代わりにした唐辛子は今日もいい色をしている。彼に買ってもらった(此れも溜め込んだポイントを使ったらしい)食器棚の中をまたちょっと整理した。

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