例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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わけ


 好い加減着るのはやめようかと想いつつ袖を通すと棄てられなくなる。腰の切り替えの部分で丈を、袖口も切り替えの部分で長さを、縮めて直した長袖のワンピースは麻が入っていて季節の変わり目に重宝してきた。
 袖口は切り替えのところでいつも折って着ているので問題ないが、随分粗い直し方だなと想う。そう想うのは、数年の間に幾らか直しが見られるようになったと云うことだろうか。
 襟の開きが大きく肩がずれてしまうときがあるのだよね、とひとりごちては今更直すことを考えて笑う。この分だと生地が薄くなり切れたくらいでは、まだ平気だと着続けそうな気がする。

 小さなあたしと一緒に過ごしてくれた小さな猫。あなたたちが今もあたしの胸にいる。一生好きでいられそうだとか一生だいじにできそうだとかと想えるようになったのには、ちゃんとわけがあった。
 今夜も星は見られそうにないから、猫たちを頭上にかかげ眠ることにしよう。

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就寝前に


 長袖の麻のシャツ。黒すぐりの香る紅茶。袋入りで買ったチョコレイト。幾度も抱き上げくたくたになったカエルの人形。花瓶に活けた曼殊沙華。面会に自転車を走らせくたくたになって帰ってきた躯にどれもがやさしい。
 買ってきた袋入りのシャンプーをお気に入りの容器に移す。空にした市販のものを中身を替えずっと使っている。透明なのも貼ってある白いシールも好き。
 入浴は鴉の行水。もう出てきたの、と彼に何度言われたろう。ほかほかになればいいの。さっぱりすればいいの。
 夜更かしするのも愉しかったなら、捌時前に寝てしまうのもまた愉しいもの。
 飛ぶように過ぎていく時間。夜であれば尚更。今宵の月に想いを込めておやすみなさい。

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しとしと


 しとしとと降る雨の朝になった。
 正午になっても雨は降りやまず、麻の長袖のシャツでも肌寒さを感じ、整理箪笥の引き出しを開け割烹着を取り出す。
 そうそう此の形、と言い割烹着を来て鏡の前に立ち腕を拡げる。前は釦開き、脇は下が少し開いていて、袖口はゴム入り。壱枚はリブ袖に直したけれど、あとはそのままにしてしまった。拾年以上着ているのに、また直して着ようと考えている。

 午后、久し振りに録画した映画を観、其の後弐階の床を雑巾掛けする。
 少しでも冬を快適に過ごせるよう弐階の部屋を整えておく。其れが拾壱月にしようと想っていること。

 壱日壱日は短く感じるのに、壱年が長く感じられるようになり久しい。去年の秋が遠い日々のことのように想え、しとしとと降る雨に身を委ねる。
 いつ降り始めたのか、いつ降り止むのか。雨が時間の流れと重なっていき、過ごしてきた倖せな時間を想うとこのまま朽ちていいと想え眼を閉じた。

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ひとりでいても


 ひょろひょろと茎が長く伸びた背の高い植物がベコニアだと今日の今日まで気付かなかった。薄紅の可愛らしい花を咲かせるものの、茎が折れやすく手入れの仕方もわからず困っていた。
 鉢植えの中で背の高くなった植物たちはよく知る姿とかけ離れていて、熱帯の花だろうかとあたしを惑わせる。見苦しいほど何本も刺さった支柱を抜いては剪定鋏を入れ、背が高くなるばかりが元気がいいわけではないよねと話し掛ける。塀沿いの菊も今年は仕方なく支柱と紐でなんとか道路に飛び出さないようまとめている。
 あたしがこれから生きるのは廿年だか丗年だかわからないけれど、同じくらいには生きて欲しく、それには小ぢんまりさせた方がいいだろう。

 手入れがたいへんだとならないように彼も是も直している。
 ひとりで飽きないかと聞かれる都度笑って首を振るあたし。壱日が長くないかの問いにも同じように首を振る。どれもたいしたことではないけれど、昔からしたいことが沢山あってひとりでいても飽きない自分。
 「愉しまなきゃ。」と言った彼に愉しいと言い笑いかけては真っ黒になる爪に苦笑する日々。(ひとりなんて想ってないのもあるのだけれどね。)

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刺激


 陸時にはしぼんでしまう朝顔をひと花寫眞におさめることができた朝、曼珠沙華とヤナギハナガサも寫眞に残す。
 ひと晩断ち縁側に塗ったニスは乾き、其処から布団を外に出して干す。弐階に運ぶのが苦痛になる前に縁側と其の周りを片付けることができ、次を想う。

 母の面会に花の寫眞を見せると、彼女の眼が大きく開いた。白に紫の入った朝顔を見たときなど特に表情豊かで、寫眞はいい刺激になるのだろう。
 帰りに川の土手に曼珠沙華をみつけ寄り道をし寫眞に寫す。秋になる都度彼と見に行ったことを想い、自分にもよい刺激になっていることに気付く。

 ご飯を食べなくなり殆ど味覚を感じることがなくなったなら、話し掛けたり(聴覚)躯にふれたり(触覚)の他に見せたり匂いを感じてもらうのもいいだろうか。
 今度アロマでも手首につけて面会に行こうかと考える。香水は持っていないけれど、面会に香水は匂いがきつすぎるだろう。
 試しにライムの匂いを嗅いで笑う自分がいた。

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