例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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刺激


 陸時にはしぼんでしまう朝顔をひと花寫眞におさめることができた朝、曼珠沙華とヤナギハナガサも寫眞に残す。
 ひと晩断ち縁側に塗ったニスは乾き、其処から布団を外に出して干す。弐階に運ぶのが苦痛になる前に縁側と其の周りを片付けることができ、次を想う。

 母の面会に花の寫眞を見せると、彼女の眼が大きく開いた。白に紫の入った朝顔を見たときなど特に表情豊かで、寫眞はいい刺激になるのだろう。
 帰りに川の土手に曼珠沙華をみつけ寄り道をし寫眞に寫す。秋になる都度彼と見に行ったことを想い、自分にもよい刺激になっていることに気付く。

 ご飯を食べなくなり殆ど味覚を感じることがなくなったなら、話し掛けたり(聴覚)躯にふれたり(触覚)の他に見せたり匂いを感じてもらうのもいいだろうか。
 今度アロマでも手首につけて面会に行こうかと考える。香水は持っていないけれど、面会に香水は匂いがきつすぎるだろう。
 試しにライムの匂いを嗅いで笑う自分がいた。

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壱掃日


 町の壱掃日。漆時を告げる音楽が流れ通りに出ると、弐軒のお宅が既に掃除を始めていた。銘々に持った掃除道具。あたしは座敷箒(軽く先がやわらかいのが好きで、うちでは外の掃除も座敷帚を使っている)に塵取りに軍手。表の通りに廻ると壱軒のお宅が掃除をしていた。
 別の通りに人の姿はなく、全軒が全軒忘れない班にうちが入っていたことは神経質な自分にとり幸運だったと想った。
 初めて参加した壱掃日のように塵袋が何袋になることもなく、壱時間も立たぬうち作業を終え解散となった。それからあたしは家に戻ると菊の間から顔を見せた曼殊沙華をみっつ手折り家の中に入った。

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林檎の色


 剝いてみなければ林檎の果肉の色はわからない。
 過去を初めて聞かされた齢上の人を想う。洒落た服にぴんとした背筋は過去から貰ったものだろう。
 褒められるものでもないが腐ってもいない筈の自分の過去。例えれば其れは小さな林檎でうんとあまくもないだろうが、飾って赤い色を愉しんだり菓子作りに使えるかなと想う。見た目を取り繕ったり見た目だけ取り繕ったりした林檎でないなら、林檎とは呼べるだろう。
 ナイフをしまった引き出しを開けては、また閉じた。林檎を皮ごと食べるのが好きな自分。

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曼殊沙華


 塀の向こうに菊が根を張り数年。拾月から拾壱月に開花するのが常。今朝其処に曼殊沙華をみつけた。数本根をつけていたが未だ固い莟。

 其処に初めに現れたのはゼニアオイだった。それからスズラン、ドクダミ、名前がわからない花、と現れては消えた植物。
 これから秋には毎年曼殊沙華が、と想っている自分。

 夢を抱く都度倖せになり、現実になる都度倖せになっていく。ひとつひとつは果敢無くとも絶えることないあまい蜜の味。腹くちくなることなんてどうでもいいこと。

 地獄の花とも浄土の花とも言われている曼殊沙華。あたしが見ている曼殊沙華は彼と見ていた秋の記憶とともに。

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転んでも


 眼の前に停まっていた通常の車体のバスが代行のバスとは気付かず、停留所の時刻表の前に立ち乗車予定の豆バスを待った。伍分拾分遅れはいつものことなので疑いもせず待っていたが、拾伍分を過ぎ首を傾げ始めると、近くにいた男性が声を掛けてくれた。
 時刻表の記された時間の前から自分が待っているのを見掛けていてくださり、電話するよう勧められ、それでバスの調子が悪く代行のバスを走らせていることを初めて知った。

 停留所に張り紙はなく、バスの車体に判るように目印があったわけでもなく、運転手に声を掛けられるわけでもなかった。
 電話口でこれまでの自分のように廃人のようになるでもなく、「あたし、どうしたらいいの?」と言葉がなめらかに出てきた自分に感動さえしつつ、「そちらでよろしければタクシーを」と言われ「バス代しか持っていないし(病院の面会に)間に合わないのでもういいです。」と返事したあとで、「では、大丈夫ですね。」と言われたことに対し「全然大丈夫ではないです。」ときっぱり返していた自身がいた。そう言ったことで随分と冷静になり、「運転手さん、あんまりだわ。」と最後は口にしていた。

 口が思考についていくとはこう云うことなんだと少しはわかった気がする。
 大の字のポーズをとり、転んでもただでは起きませんからと笑い、バス停を後にした。

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