例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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珈琲の花


 珈琲の花は白いそうだ。まるで雪が降ったように咲くそうだ。
 珈琲豆の袋を新しく開け、匂いが鼻に届いたとき、想ったのは彼のことだった。

 珈琲の花を見てみたいな。其の光景に想いを馳せる。
 ふっと頭が軽くなる。同時に呼吸が深くなる。取り敢えずと、明日くらいまでは生きようか、などと想う。

 百日紅を見上げている彼。其れが瞼の裏で珈琲の花を見上げている彼に変化する。そうして過去と明日を思い出す。
 個人の持つ時間の半分は、個人の産物。半分は事実であり、半分は個人の記憶と捉え方に因るもの。

 珈琲に添えたブルーベリー味のクリイムチーズに溶けていく。

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ローゼルとユーカリ


 莟なのか実なのか、よくわからない。おそらく実だろうと想い、ユーカリの葉と一緒になった其れの花束を買ってきた。
 臙脂色の其れを上から押してみるとかなり硬い。実で間違いないだろうと半分は花瓶に活け、半分は花籠に飾った。

 ローゼル。初めて眼にする植物。
 うさぎの尾(ラグラス)にサンキライ、末摘花の乾燥花を入れた花籠に添えたら似合うだろうと想ったが、想った以上に馴染んでくれたので笑ってしまう。
 花籠は藤の蔓で編んだことが記された無骨な姿をしたもので、改装してもあちこち古さが残った家の何処に置いてもしっくりくる。

 逆に言えば洗練された意匠のものは此の家で浮いてしまう。
 夫の友人から贈られたミキモトの置時計を何処に置くか散々迷い、唐辛子など果実を乾燥させ詰めたジャムの瓶を並べた戸棚の上をみつけたときは安堵した。硝子製の小さな可愛らしいもので、箱に入れたままにしておきたくなかった。

 絶妙な相性、絶妙な均衡、絶妙な偶然で此処に存在する数々のもの。自身も含め。

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「テルマ&ルイーズ」


 吹き替えでは緑色の車云々になっていたけれど、緑がかった青、浅葱色の車だと想っていた。或の1966年製サンダーバードの車体は正確には何色なんだろう。未だにそんなことを想う。
 「テルマ&ルイーズ」、幾度も観た映画。「俺たちに明日はない」を観たときと同じに最後が忘れられない話。主要のふたりのいとおしさに泣いてしまう。

 理不尽な扱いに深い傷、無力と絶望、の先にある強かさとやさしさを好む。
 幾度も死んでしまうようなことをして其の都度生き返るようなことをして、他人から見たら悲痛な最後を迎えても、糞喰らえのような言葉を口にし清々しい気分で笑って逝きたい。そう想うので椅子から立つときも左手は中指を突いて。自身には恥ずかしくありたくない。

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星を探す夜


 休日の面会。ひっそりしている病院。オイの漢字を聞かれ教えると、初めて甥と書いたと笑ういとこ。
 此の前は休日に予約して貰ったのに熱を出して、と手間をとらせたことを詫びる彼。今から車で迎えに行くと連絡してきた彼。
 目覚めたばかりなのか、こんなに早くから来てくれるなんて、と恐縮する母。あたしたちのご飯を心配するので大丈夫だよと言うのに何遍も心配するし、しまいには、何かあると想うけれどお漬物がないね、と言うので笑ってしまうとあたし以上に笑う彼女。ご飯の支度をするあたしの横で、お漬物は彼女がこしらえてくれていたことを思い出す。
 帰宅し父に報告したり、夫に話したり、・・・。

 何の引っ掛かりも感じない壱日。違和感を覚えない人たち。老いて逢う都度何度も同じ質問を繰り返してくる近所の人とて同じ。
 久し振りにこしらえたポトフを食べてほかほかになった夜。自分もあなたもいいことがあるようにと星を探す夜。

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秋刀魚とシャインマスカット


 秋刀魚を壱尾ガスコンロで焼く。七輪でもあれば壱尾でも様になるだろうかと想いつつ。大根がないことを彼に告げると買いに行こうとしている。
 ひと月に壱度の贅沢。
 シャインマスカットも買ってきた。綺麗な緑をしていたのは後退りするほどの値をしているのに、今日みつけたのは日が経っているのか黄色っぽく、あたしでも手が出せる値が付いていた。
 黄色い方が熟してあまいと聞いてはいたが、初めて口にするシャインマスカットはとてもあまい味がした。

 此処のは安いよ、と彼に言われたとき買えばよかったのだろうか。其れをずっと気にしていた。
 けれどこんなにもあまい味の葡萄なら、彼はそれほど口にせず、初めて口にしはしゃいでいるあたしに「どうぞ。(〇〇ちゃんが全部食べちゃってもいいよ)よかったね。」と言ったことだろう。
 それよりも秋刀魚。好きなだけあってきれいに食べる人だった。今年は食べることができてよかった。
 これで金木犀をみつけられたら更に良いのだけれど。或の苦手な強い香りにさえ逢いたいと想う秋。

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