静かな日々の階段を
2025, Oct 14
季節が移ろう都度想うのは彼のこと。
えんじ色のストール。墨色のリュックサック。見上げていた樹木の先の赤く色付いてきた葉。田舎の村で生まれた子だからと言いあたしが草花の名を全て知っている筈もないのに、見慣れない植物を眼にすると名を問うてきた彼。
〇〇ちゃん。あたしを呼ぶ声に目線を移すと、手招きしている彼の姿がある。何かの実か、川に浮かぶミドリ亀でもみつけたんだろう。
他人は夢だと言うかもしれないが、あれからもあたしは彼に逢っている。
数の減った彼のギターにレコードに書物に衣類に・・・。無くなった彼の部屋。
同じではないものの、同じように暮らしている今日。ぷつりと途絶える其の日まで此の先も同じように暮らしていくのだろう。
全くそう云う気はない、と返事をしたら、ダンナさんがやさしかった人はずっとひとりでいるのよね、と言われた。
毎日会話しているなんて自分にしかわからないこと。
此のおだやかで静かな日々以外何もいらない。