果実
2025, Oct 13
小粒の蜜柑はあまくもなかったけれど酸っぱくもなかった。青ときいろが交じる蜜柑を父と彼にひとつづつ渡す。林檎はあとで貰って食べよう、とそのままにする。
蜜柑を前に思い出すのは、うちの子は蜜柑が好きで、と正月用に買ってきた蜜柑の箱の中身がひとつふたつになっていたのに家族の誰も気付かず、来客に蜜柑を差し出しながら苦笑していた父のこと。それからあたしが酸っぱいと言う都度横半分に切ってと強請っていた彼。そうして果汁を搾りお酒に入れていたこと。
誰も手入れをしないので、たぶん伯父の栗の樹は実をつけなくなったのではないだろうか。葡萄でも蜜柑でも柿でも同じようだろう。
例えば、もう弐度と口にすることないと想われる或の柿。あれなら食べられた或の硬い柿。瞼の裏でもなく脳裏でもなく胸でもなく、傍らにぽんと浮かぶ。ふれようとしてもふれられない、それなのに明るさと温さを持ちあわせている灯りのような数々の果実。
いちめんの果実、いちめんの果実、いちめんの果実、・・・。
そっと言葉にしてみたら、傍らにぽんと現れた猫が腹を上に寝転がりにゃあとあたしを呼んだ。