例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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親切と大きなお世話


 母の部屋に敷いたラグを外に干す。キルト風の綿のラグは足裏がガサガサになることなく気に入っているが、厚いので洗濯できず、固く絞った布で拭いたり除菌スプレーを掛けたり陽に当てたりして壱年中使っている。
 ベッド下は時々掃除している筈が、何処に引っ掛かっていたのだろう。食べかけのポテトチップスの袋と覚え書きを記した用紙がみつかった。これだからかあさんは、とポテトチップスの袋を塵箱に押し込み用紙に眼を通し、其れが日記だとわかった。

 日付と誕生日と題した日記には、デイサービスから帰った早々ケーキを出してくれたこと。生まれてはじめだったこと。夕食はお寿司だったこと。ありがとうと今年はうれしいの文字があり、日付は伍日にまたがり記されていた。そのどの日にも、皆様には本当にお世話になりますだのいつもありがとうだのと感謝の文字が並んでいた。
 簡単な日記をつけていたことは知っていたが、家の中を荒らされるようになってからやめてしまったと聞いている。

 一緒に暮らしていても細かな処までわからない。そして家の中のことの何ひとつ知らないのが部外者。
 変化した母の心の内が嬉しいのと同時に、思い出したこと対し大きなお世話と吐き捨て、用紙をよく見える場所に飾るように置いた。

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ほら


 ほら、こんなふうにしたかったの、と縁側まで布団を引き摺り持っていく。外に置いたサンダルをつっかけ布団を持ち上げ布団干しスタンドまで弐歩歩く。
 ほらね、と声を掛けると、亀たちは遊んで欲しいのか水槽の中で騒ぎ出す。
 下はコンクリートで固められているし、上は垣根まで屋根が付いているし、此処を庭と呼ぶのか軒下と呼ぶのか玄関周りと呼べばいいのか未だにわからずにいる。利点は濡れないこと、欠点は陽が半分しか当たらないこと。
 布団干しスタンドや鉢植えや物置きにした棚の位置を決めるのに四苦八苦したが、ひとりで此処を片付け半年以上費やした結果、随分すっきりと感じが良くなった。母が整理せず丗も肆拾にもなった植木鉢や土に、叔父が持ち込んだ使えないものや壊したものは残っているが、今は此れでいい。
 ほら、まだ咲かないものの、菊は莟でいっぱい。

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雨に歌えば


 支払いを待たされ病院を出たときにはぽつりぽつりと雨が落ちていた。
 パーカーのフードをかぶり自転車を走らせること廿分、雨は本格的になり自転車を降り傘をさし歩く。濡れても寒いどころか、パーカーを脱ぎたいくらいな温かさに歌いだしてしまう。
 家に着いたら亀たちを中に入れ、一緒にお茶をしよう。茶まんじゅうを父から貰い珈琲には牛乳を足そう。
 失敗と言えば靴を布靴にしたことくらい。眼鏡に雨粒が煩わしいのはいつものこと。服は雨が降るかもしれないと最初から濡れてもかまわないものを着てきた。濡れるのも愉しく、傘の横から入って来る雨が気持ちいい。
 橋に降る雨。川に落ちる雨。草木を濡らす雨。大地にそそぐ雨。そしてあたしも彼らと同じ雨に濡れるもの。
 家まであと伍分。傘をたたみ自転車にまたがる。

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明け方の夢


 整備されたらしく以前走ったときと道の様子が違っていた。どの方向へ進んだらいいのか迷ってしまい自転車の速度を落とすと、こっちだと言うように後方を走っていた彼が先に出た。
 信号は先を走る彼が渡るとき青だった。自分が渡ろうとすると信号は黄から赤になってしまった。
 信号で止まったあたしに気付かずに彼は先に進んでしまい、あたしが信号を渡った先に彼の姿は見えなかった。
 進む方向が判らず自転車を止め、道端に座り込むあたし。途中で彼が気付いたら待っていてくれるか、どんなに先に行ってしまっても迎えに戻って来てくれると知っている。

 目が覚め夢を見ていたとわかると、起き上がりトイレへ向かった。
 今も待っていてくれるのだろうか、今度はいつになるかわからないけれど待っていてくれるのだろうか、と便座に座り泣いてしまうと、きょとんとした表情をした彼が見えた。は?えっ?待っているのは当たり前なんだけれど、〇〇ちゃんいつも迷子になるし、と彼の心の声が聞こえた気がしてあたしは泣くのをやめた。

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ウォーターヒヤシンスバスケット


 台所で使う籠は、最初樽のように板でできたまるい形のバスケットを考えていた。結局ウォーターヒヤシンス素材の軽いとわかっている籠にしたが、持ち手が買い物かごのように中央にあり使いやすい。其の為重ねることはできないが、重ねて使うことはまずないので、これから籠を購入することがあったら同じようなものをと想う。
 もともと筋力がなく、此の先を考えたら彼も是も今の内だろう。

 高い場所へ物を置かないことに、重い物を所有しないことに、散歩は続けることに、編んだことのない靴下を編むようなたいしたことでなくとも時々新しく始めてみることに、・・・。
 ウォーターヒヤシンスの籠に詰めたのは、食材などとともに諸々の事情。確か横幅肆拾センチだったろうか。たくさん詰めても持ち上げられる籠に、大丈夫と言い彼を見ては笑う。

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