例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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机と椅子


 作業台と机を兼ねるには無理があるとわかり弐階に机を置く。
 天然木の折りたたみ式の机はなんとか弐階に運べる重さで、此れにしてよかったと改めて想う。別売りの椅子もあったが高さが合わず背もたれの無い籐椅子を購入したが、其れも重さがなくて助かる。
 机に合わせ売られている椅子は例外なく自分には高いと感じる。背が丸まり腰に負担が掛かり長く座っていられない。

 籐椅子に座り部屋を見渡す。
 弐階に扉はなく廿畳はあるかと想う板張りの部屋がひとつあるだけ。其処にうすい陽が入り床がオレンヂに輝いている。いつのまにか縁側に乗っていた柿の色に似ている。近所の人が自宅の柿をもぎり届けてくれたのだろう。

 大丈夫。大丈夫、と理解できないような言葉が口を突く。
 レエスのカーテンを通した陽は何本もの立て筋があり、包帯を並べたように床に拡がっていた。

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覚え書き


 ペンとメモ帳が欠かせない。文字に素描に図にと壱枚の小さな用紙にごちゃごちゃと書き込んだり、破って付箋にしたり、みつけた四つ葉を挟んだり、足りなくなったティッシュの代わりに血止めに使ったり、・・・。
 覚え書きに記した用事を済ませたり、壱日の終わりに日記にしまとめてしまうと、壱枚づつ破って済んだことの確認とする。

 渋柿を買ったのは何日前だったろうと想い数日分の日記を読み返す。
 過去形で綴ったらいいようなものがそうなっていないのは、メモ帳からまとめているとさっと読んだだけでわかる。なんて雑な日記なんだろう。

 降り始めた雨。今夜はティム・バートンの映画のテレビ放送がある。何故クリスマスでなくハロウィンに放送されるのかわからず、メモ帳には?×が足されている。其の覚え書きも破って塵箱へ。
 今日最後の壱杯の珈琲を口に含む。
 忘れてしまうことの方が多いのに、殆どが他愛ないことばかりなのに、雑な生き方をしているだろうに、彼も是もいとおしいと想ってしまうなんて。
 柿の熟す日を待っている。

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眠る


 眠る。ふかふかの毛布にくるまれ。眠る。
 眠る。ひいやりとした土の上に。乾いた匂いのする草の上に。眠る。
 眠る。雨音をききながら。今朝摘んだ花のあまい匂いを嗅ぎながら。眠る。
 眠る。自分を無くし。昼間溢れていた感情を鎮め。眠る。
 眠る。レモネードを飲みほした午后に。空が星でいっぱいになる頃に。眠る。
 眠る。誰かと手をつなぎ。誰かと抱き合い。相手が小さなぬいぐるみであっても互いに天使となり。眠る。
 眠る。昨日と今日の傷をなでるように。力を溜めるように。眠る。
 眠る。明日もあなたに逢えるよう。明日も自身を迎えられるよう。眠る。
 眠る。壱日を束ね。壱日を重ね。眠る。
 眠る。猫の、犬の、亀の、羊の、無防備な姿。そしてあたしも。眠り、眠る。

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藍の時間


 朝の藍の町を歩くのは、なかなか難しい。夕方の蒼い町を歩くのは、天気と時間が限られている。
 あたしを起こす人も誘う人も、もう誰もいない。
 夏の頃は肆時に起き出していたこともあるのに、此の頃陸時過ぎまで寝ている。藍の町を歩けるはずもなく、せいぜい朝靄に出逢うことがあるくらい。
 それでもひいやりとした空気や少しづつ光が拡がる空間や珈琲豆の匂いに足が止まると藍い時間が恋しくなる。
 確かに或の刹那にあたしはいたことがあった。それも壱度や弐度でない。同じような時間はこれからも巡ってくるかもしれない。
 彼の青いシャツを今日着ようか明日着ようか日々迷っている。逢魔が時窓の真ん中に浮かぶ月は何も応えず、蒼い空に浮かんでいるだけ。同じものなど何ひとつない悲しみが夜を突き刺して、

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荒野


 風が強くなった。黒の綿のシャツの上にオバーオールを着て散歩に出たが、上着も持ってきた方がよかったかもしれない。土手に向かうのは止して町中を歩こうかと想ったけれど、山並みも川の水も青くこんな日に土手を歩かないで何時歩けばいいのだろう。
 せいたかあわだち草の群生に隠れ気付かなかった。赤まんまが咲いている。それにきんぽうげの仲間。きんぽうげの仲間はどれもよく似ていて区別がつかない。
 見渡せば野、野、野、・・・。其処にぽつりぽつりと緑を抱いた樹木。顔を表した芒。荒野を見ていると落ち着く。其処に感じるのは、人間であるとか、飛べないだとか、の自身の悲しみ。街の雑踏に感じるような不快さがない。
 風が持って行ってくれたならいいのに・・・。後ろ向きで歩いていたら牛の糞を踏みそうになってしまった。

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