例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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雨でなかったら


 平日に橋向こうまで行く丁度いい時間のバスがあったら、と風雨の強い日は想ってしまう。傘をうまくさそうとすると足元が覚束なくなる。
 遠くに見えるのは櫻並木。夕食は総菜で済まそうと、橋を渡り右に折れ土手の道を歩く。坂道を下る手前、満開になった櫻に足を止める。今度また面会に行ったときに母に見せようと寫眞に撮った。
 雨でなかったら遠くから見るだけだった櫻。日暮れは近く、辺りに人影は見られない。うす暗さと雨音が、過ぎ去った時間と今を繋ぐ。大人になったとき猫を想い、ひとりだけ大人になってしまったと泣いたけれど(考えたら猫の方が先に大人になっていたのに)、時を過ごすほど満ち足りた気持ちも増えれば声をあげ泣く回数も増える。
 櫻の前ですました顔をするあたしの寫眞が増えることはもうない。寫眞だけ彼と並んだ時のまま。動かない。

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時間


 ひとりで笑う時間。彼と逢う時間。亀たちと遊ぶ時間。カエルの人形たちと過ごす時間。現在と過去。現実と感覚。全て此の家に納まり、混沌としつつも時間は秩序が保たれている。此処に突然誰かが訪ねてきても、時間は乱れることなく流れ続ける。
 昨日降り出した雨は止み現れた風。シャッターを閉めうす暗くなった家が作る静かな空間で深い呼吸をする。速度を変える時間が停止したときの姿が好き。瞬間を意識すると、カップの渕まで愛おしくなる。
 全部見ていたい。眠りたくない。ときどきひとりで子供のように駄々をこねては布団に入る。

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白い櫻


 曇り空、土手の櫻は霞んで見える。それとは対照的に花瓶に活けた八重の櫻はまるで意思表示をしているかのよう、輪郭を示している。
 余りにも白く大振りな花に最初それが何の枝かわからなかったけれど、此の家に来て口を閉ざしていた枝が笑うまでにそう時間は要らなかった。花瓶に納まり窓から入る光を受けた途端表情がゆるみ、櫻・・・、と放たれた声が聞こえた気がした。

 バケツに枝をみつけ家に誘い、両手で抱えて家まで歩き、ふたつの花瓶に活ける。其れも素敵。
 毎年毎年大きな染井吉野の樹を見上げていた。それがいつしか白い山櫻になり、今では遠くなった櫻。
 変わっていくことを恐がりたくない。

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 櫻も今は遠くから見るだけ。
 いつかまた寫眞に撮ったりするような日も来るのだろうか。

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珈琲豆の入れ物


 ビニイル袋に入って届いた珈琲豆の保存に、DRINK BOTTREと文字装飾の入ったポリプロピレン製の筒状の入れ物を選んだが、持ちやすく軽く蓋も開けやすく豆も取り出しやすい。
 以前はマカロニを入れ使っていたが、珈琲豆を入れると更に見た目が可愛らしくなり、黒い方も可愛らしいけれど透明なものをふたつ買ってもよかったかななどと想ってしまうほど気に入ってしまった。

 ひとつひとつ珈琲豆の色が違う。其れを見ているだけでも愉しい。そうしていると聞こえてくるのは、よかったね、と言う彼の声。
 悦ぶことを壱度でも否定された覚えがなく、いろいろなことを少しづつ変えながらあれからも日々を続けている。入れ物が変わっても、珈琲豆を取り出す都度、あたしに匂いを嗅がせようとする彼の姿はきっとこれからも変わりなく。

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