例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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贈り物


 感情のみで生きているなら、想うことは死にたいでしかない。思考を巡らせ生きるなら、あの人のように彼のように生きることに誠実でありたいと。生活を成り立たせる最低限のことをしつつ、ひとつでもふたつでも其処に何か足せたらと想い暮らしている。
 ツリーなんて飾ってみたり、編み物なんてしてみたり、・・・。今日発売のウンベルト・エーコの「薔薇の名前」は現時点で文庫化の予定はないそうで残念だとか(映画で観ておもしろかったけれど上下巻で凡そ陸千圓の値)、ジョニー・デップが「モディリアーニ」の映画を撮ったとか、来年「アンドリュー・ワイエス展」が開催されるとか、矢沢永吉さんが出ると聞いたので「紅白」を見てみようかとか、・・・そんなことに照らされて此の日々にいる。
 日暮れから就寝まで灯していたツリーにくちづけて、自身に贈り物をした。今朝出ていた深い霧のような贈り物を。

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きらきら


 雨が降り続く中、ケーキを買いに行く。
 町の中は静かで飾り付けもなく、ケーキ屋の扉を開けるまでクリスマスを疑うほどだった。どれだけ今まで華やかな街に住んでいたかを想う。借家の周りこそ静かだったが、大通りを渡り駅へ向かうとクリスマスの頃はイルミネーションや大きなツリーが飾られ、クリスマスマーケットも現れた。何体ものテディベアが飾られたハウスがあり、其処は出入りが自由でベンチがひとつありベンチに置かれた大きなテディベアを抱くのも寫眞を撮るのも自由だった。其れをあたしは東京の街のようにきらびやかではないけれど、徒歩で行けるしこんなのもいいよねと想っていた。
 雨は雪にならず、夕食にケーキだけ食べた。卓の上にツリーを置き彼に苺のショートケーキを自分に桃のショートケーキをとりわける。ワインもチーズもフィル・スペクターの音楽もない。なのに、きらきらしている。
 質素だからか余計にツリーに飾ったボウルやあちこちに置いた乾燥花や小物がきらきらして見える。硝子でできた小さな天使と青い鳥に目を向けると、「平和な街も闘っている街もメリーメリークリスマス」と佐野元春の歌が聴こえてきた。

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灯り


 面会から帰宅しポトフとアボカドサラダをこしらえ、クリスマスツリーの電球を灯して食べる。
 電飾は白だとばかり想っていた。白はかめ覗き色にも見えるし、星形の電飾は白でなく薄いきいろに光っている。
 わかりきっていることでも嬉しければ、想わぬことも嬉しい。そこにあたしの声が響く。彼の声が聞こえる。

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命日


 余裕を見たとは言え、予定より弐時間近く早く帰ってこれた。すっかり覚えた道順とときどき変わる風向き。自転車でも疲れを感じなかった。
 見上げても其処に父の気配はなく、眠っているか家にいるかどちらかだろうと想いつつ手を合わせてきた。滞在時間およそ拾分。
 出掛ける前、夫にも声を掛けた。本人が埋められた場所へ行くのに一緒に行こうと誘うのは傍から見たら不可解なことだろうが、自分には其れが普通。生死観はどうしようもない。それに其の後弐度も逢っているなら仕方ないと想っている。
 他の誰でもなく向き合うのは自分。心を預けられるような相手ならともかく、他人の指示通りに動いてよかった試しがない。
 体裁など全く気にもしなかった父。全くではないものの自分もだいぶ父に似てしまったなと想い、袋に入った揚げ餅をどーんと父の前に置く。拾伍年目の彼の命日に。

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思い出すこと


 外は雨。暖房した部屋でスイッチの入っていない電気カーペットに亀たちと寝転がる。寒がりの大きな亀はブランケットに入ったきり出てこない。小さな亀はまとわりついて離れようとせず、本を読むこともできない。

 目を閉じていると嫌なことを思い出す。嫌なことを繰り返し思い出すのは人間の防衛本能だと聞いたことがあるが、疲れる。思い出すのは決まった人たち。心の内でまた呪いを唱えているけれど、仕方のないことだとも想う。信用を失うとはそう云うことではないか。
 嫌なことを思い出した後は幸福な時間を思い出すことにしている。嫌なことと違いこちらから働きかけなければならないが、思い出すことは定まってなく、思い出しているうちふいに思い出すことがたくさんあって、いつのまにか笑ってしまっている。

 気付くと小さな亀の姿がなく慌てて起き上がり弐、参歩進んだところで、背後からカポンカポンと馬の歩いているような音が聞こえてきた。振り向くと小さな亀が顔を上げ、どうしたのお?、と云うような顔でこちらを見ている。
 いつかこのことも思い出すのだろうか。ぎゅっと抱きしめた気持ちごと。

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