例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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ガスコンロと大きな鍋


 壱見おだやかな日。けれど外に出ると想ったより風が強い。
 保温調理鍋に入れたのは、ひとり分に丁度いい小さな大根。

 つみれもこんにゃくも入っていないおでんをこしらえ食べる。以前想ったことはなかったのに、今はあたしは彼と一緒に食べるために料理していたのだと想う。
 いつか、もう少し元気になったなら、手の込んだものをこしらえてみようか。

 冬。ガスコンロと大きな鍋。彼の熱い手と曇った硝子窓。

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布団の中


 エアコン廿度の設定では暖まらず廿弐度に替え、やっと室内が拾度を上回る気温になった。真夜中から未明にかけ室内は何度になるのだろう。
 冬になり朝目覚めてエアコンをつけ布団を抜け出すのは丗分後になった。板の間に敷いたカーペットの上に敷いた布団の中は温かく、電気毛布や湯たんぽを使ったことはない。彼に「くまがいる。」と言われた寝間着を着て眠った夜など、汗ばんで夜中に目覚めることもある。此の冬は寒く、真冬になったら母のぶ厚い電気毛布を拝借しようと想ったが必要ない。
 何故此の冬は室内に対し布団の中が温かく感じられるのだろう。室内が寒いので余計に温かく感じられるのだろうか。それとも彼やカエルの人形たちが潜り込んでくるからだろうか。毎年肩が冷え肩掛けを使っていたのに、其れも要らない。
 鉢植えの植物たちの為には未明からエアコンをつけようか、それとも鉢にもっと何か捲いた方がいいのか、考えつつ朝の室内の寒さに服を着込む。

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突風


 橋の中央に差し掛かったとき急に風が強くなった。歩くのが困難な風の強さに壱度しゃがみ考える。進むにも戻るにも同じ距離。躯を欄干と平行にし、欄干を摑みながら気をつけて進むことにした。
 橋の長さを鑑みると時間にして伍、陸分だったろうか。渡りきるまでに風は弱まった。駆け抜けていきたかったけれど、また急に風が強まれば転んでしまうかもしれないと想うとできず、左右に脚を拡げ早足で橋を抜ける。

 隣に掛かった車両用の橋ではひっきりなしに車が走っていく。ハンドルを取られないのだろうか。自分だったらハンドルを取られてしまうだろう。
 バスに乗っても最悪のことを考えてしまうが、次からは違う路線のバスを利用し、橋の手前のバス停から乗ることにしようか。

 病室に入るといつも通りの母がいて、白梅を寫した寫眞を見せると笑顔がこぼれた。束の間おだやかな時間。

 風は夜になっても止むことなく、自分にしては遅い時間にココアを淹れて飲んだ。

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白梅


 葉が萎れ実を落とすようになった南天を乾燥花にした後、藍色の花瓶に活ける花はみつからないままだった。いつもの店を覘くと水仙とねこやなぎを束ねたバケツの脇にひとつだけ白梅の枝が残っていた。ねこやなぎは余り元気があるように感じられず、白梅の枝を買って帰る。
 紺色の花瓶に活けた蝋梅は、花を幾つか落したものの未だに萎れない。白梅も長く飾っていられるだろうか。

 壱月も終わりになると隣町の梅林が気になり彼と出掛けた。白梅、紅梅、黄梅、八重咲に枝垂れ梅に、それから椿。
 梅林も薔薇園も曼珠沙華の続く道も此処にはないのだけれど、脳裏に焼き付いたものは幾つでも何度でも壱度にあたしの前に現れる。鳥をみつければ其処へ、猫をみつければ其処へ。彼とあちこち動き廻っては笑う。そうして、梅の匂いがするね、と言っては立ち止まる。

 花瓶に活けた梅からもあまく清々しい匂いがする。立ち止まってははぐれないように彼の後を追う。

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海まで×キロ


 昼時太陽の昇る位置が南と知っていても、左右の感覚が無いことが東西南北を狂わせる。此処に来て壱年、やっと海がどの方向にあるのかわかった。今まで逆の方角に海があるのだと想っていた。そして参方に見える山の方角も勘違いしていたことに気付く。形が綺麗なだけに富士山だけは名前がわかり方角も間違えてなかったけれど、他の山は海と富士山を考えると有り得ないと知った。
 それでも土手を歩けば山の色も川の色も藍色に染まっていて、枯れ草は麦わら色で輝いていた。橋の下には釣りに来たとわかる参人の少年がいたが、幾ら今日が春のような陽気とは言えひとりが川の中に入っていくので驚いた。すぐに上がる様子もなく、もうひとりもスウェットパンツの裾をたくし上げ川に入ろうとするのが見え笑ってしまった。何故だか嬉しかった。
 持っていない感覚は仕様がない。色や温度や肌にふれた感覚で野を往く。鳥の影があたしを追い越していく。向こうにあるのは海。

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