例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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川べりの花に


 川べりのあちこちに咲く野薔薇のどれか壱本くらいは手折れるのではないかと想っているのに、近付いてみると手が届く枝は壱本もない。肆日前より花が開き樹も大きくなったのを見てこれならと想ったのに、全く手は届かなかった。
 肆日前野薔薇はあきらめ、初めて見る紫の花を弐本手折ったが、今日も初めて見る樹木の枝を気付くと夢中で手折っていた。其れも弐本。香りのするうす紫の小花がたくさんついている枝だった。

 殆ど往来がなく、ましてや立ち止まる者などいない場所で、花はいつ其処に根付いたのだろう。
 子供の頃道端に咲いていた秋桜を、壱本引き抜き家に持ち帰り庭に植えたことを憶えている。やがて畑ひとつほどくらいまで増えた秋桜は手折っても手折っても絶えることなかった。父はよく怒らなかったと想う。またそこまで放っておいてくれたものだと想う。其のことを考えてもあたしにはあまかったことが想像できる。

 枝壱本でいっぱいになった花瓶。そこに鉢植えに咲いたピンクや紫の小花を差し込み、父と彼と其々の傍に置く。何も言わずに放っておいてくれることがわかっているので、あたしはくすくす笑う。
 それにしてもミツバチでもあったなら花粉を運べるだろうに。

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リラックス


 弐階はともかく、壱階はどの部屋にいても涼しく、家の中にいるのが快適になってきた。冬になったら、夏になったら、と考えるには今がいい時期で、台所の家具の配置を変える。
 電気ストーブを置くでも扇風機を置くでも椅子は絶対此の位置だろうと、巻き尺を持ち出しまた壱センチ単位で決めているなあとは想ったが、性格は直らない。している最中に細かい性格を意識できるようになっただけでもいいだろう。トイレを忘れてしまうような過集中にはならずに済んでいる。
 問題はリラックス。彼と一緒なときはできるのに、人形を抱こうが花に水やりしようがひとりのときくつろいだ気になれるのは壱、弐分。無いよりはずっといいと、卓に置いた彼の寫眞の後ろにをペッパーベリーの乾燥花を入れた小さなバケツを持ってきた。
 レエスの絲で花瓶敷きを編んでみようか。壱、弐分の時間は変わらなくても濃厚な時間になら変えられるかもしれない。

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いい夢を


 彼と彼の友人たちとキャンプに行ったようだった。
 帰宅し彼が入浴している間にリュックサックの中身を整理しようとすると、彼のリュックサックには大量の食材が入っていた。余ったものを頂戴したのだろうが、食べきれないほどのおむすびも入っていた。
 どうする気だろう、どうしたらいいのだろう、と悩んだところで夢から覚めた。

 思考の癖はなかなか抜けない。答が出ていることでも悩むことから始めてしまう。けれど、悩んでいる時間は以前と比べれば随分短くなった。
 それより夢でも束の間でも彼の姿を眼に映したことの方がだいじ。そう想ったことで悩む時間はまた少し短くなったろうか。

 冬用の羽毛布団を夏用のものに替える。あちこち開けた窓から風が入ってくる。
 いい夢を見よう・・・。自身でどうできるわけもないのに、つぶやいては笑う。

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だんだん


 外出時に着る服は特に要らなくなった。限られた店しかなく遊び場所もなく、必要とあらば母のものを借りることもできると想うと、此処に来てからシャツやブラウスのカフスを取り袖口にゴムを通し直して着ることが多くなった。
 不器用なこともあり壱枚直すのにも時間は掛かるが、袖口が汚れるのを気にしいちいち割烹着を羽織る面倒臭さや、Sサイズがみつからず指先まで隠れてしまう煩わしさから開放されたことは大きい。
 だんだん好きなものがわかってくる。されど年齢とともに好みも変化する。そうしてはだんだん好きなものがわかってくる繰り返し。
 変わらないものも変わるものもいとおしく、それに合わせ繕ったり直したりする自身の手をいとおしく感じたりして、今日も手直しした服を頭からかぶり彼の前に立つ。それからいつものようにお茶にした。

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生命


 花びらの色を残し乾燥花になる花、花びらの色が抜け茶に変色するが形が美しく乾燥花になる花、やはり花びらは変色するが匂いを残し乾燥花になる花、と乾燥花にしてもいろいろあるのだなと想う。
 リラは花びらの色は抜けてしまったが、樹木に繋がっていた頃を思い出したかのように匂いを取り戻していた。他の花と一緒にし小瓶に詰めればいいのだろうが、まだ長い枝についたままにしてある。

 手に負えないものは無くなっていくが、そうでないものは増えていく。
 いつか同じように自身を亡くすのかもしれない。其の直前まで彼を想っているのかもしれない。

 初めて見る茎の先に小花がまとまった紫の大きな花を試しに弐本吊るしてみたが、果たして此れは乾燥花になるだろうか。
 生物学的には生命は無いものとなってしまうのだろうが、そうは想えず花の傍で耳を清ます。わかっていることが全てではないでしょう、と相変わらずとも云えることを放っては、成熟する前に朽ちるだろう自分に笑う。

 それほど関わることなかった花のひとつにも与えてもらっているのに、あたしはこのまま誰にも何も残さずいくだろう。ならばせめてすっぱりとと願っている。

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