記念日
2026, May 15
明け方に夢を見る。旅行に出掛けようとする夢だった。
車の後部席に彼とあたしの兄とあたしで並んで座っている。前にいるのは身内には違いないが、はっきりしない。兄はめずらしく饒舌になっていて、彼と頻りに話をしている。車酔いするあたしはすぐに気分がすぐれなくなり兄に寄りかかっていたが、おにいちゃんの服に吐いていいよねとでも言うように久し振りで逢った兄に甘えては膝に乗ったり首に手を廻したりしていた。
やがて施設のような宿泊場のようなところに着くと、兄と彼はあたしを置いて先にいってしまった。
目が覚め、夢に出てきたのは自分以外は亡くなった人ではなかったかと驚く。
花瓶にはおとつい摘んだ可愛らしい花々。今年初めての麻のパンツに今年初めてのアイスクリイムを入れた珈琲。どれも弐枚づつ買った布のコースターを引き出しから取り出し、どれがいいか彼に尋ねる。特に何もなくいつもと同じような日。
男女問わず言葉を差し出してきた人はひとりもいなくなってしまったと云うのに、約束を交わしたわけでもない彼と今も一緒にいる。遺された覚え書き帳を開きパスワードのひとつを眼にしたとき、彼がふたりの記念日を憶えていたことを初めて知ったけれど、あたしが憶えていたことを彼が知っていたかどうかはわからない。