例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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黒く塗れ


 スタンリー・キューブリック監督の「フルメタル・ジャケット」をやっと観ることができた。他の知られた作品より、自分には壱番心に残ったものになった。最後にローリング・ストーンズの「Paint It Black」が流れるのも大きい。
 やりきれない感情がときどき表に出てくる。表に出てきたときは表現することを選んでいる。自分の場合、絵、寫眞、詩文、とだいだい其のみっつのうちのどれかになっているけれど、どれにもならないときは思い出した歌を口遊む。「If I look hard enough into the setting sun ・・・・・」
 此の頃歌を口遊むことが多くなった。

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場の雰囲気


 病院へ面会に行った夜は必ず疲労するようになった。冬の寒さがそうさせるのだろうか。

 夜中に目が覚めた。長い夢を見ていた。
 いつものことだが母が説明もせずあたしに頼んだとひと言告げ出掛けてしまう。扉を開けると、大勢の人が部屋の中に座っていた。若い頃ならおろおろして此処で目が覚めただろう。
 特におろおろすることもなく、本来なら対応する者が出掛けてしまったことや自分が対応できる範囲を説明したあと謝罪すると、誰一人怒ることもなく部屋を出ていく者もいなかった。対応を始めると向かって右端に座っていたグループで来ていたらしい女性たちから「大丈夫よ。」だの「あたしたち急いでないもの。」だのと声が掛かった。そのうちのひとりが有名な菓子店の名をあげ「券を持っているからあげる。」と言う。
 何故と想いながらも安堵したのだろう。笑うと「私も持っているからあげる。」と別の女性からも声が掛かった。
 途中で目が覚めてしまったけれど、彼女たちの御蔭でおそらく最後までやり遂げられたのではないかと想う。

 場の空気に強く反応してしまう自分は、場の雰囲気を良くする人に助けられる。ありがとうと言った傍から熟睡してしまっていた。
 夢で見た人。顔もはっきり憶えてなく、名も知らぬ人。けれど、何処かに存在している。

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キャンディー


 吹きつける風、千切れた青空にシャッターを下ろす。陽射しは消され顔の見えなくなった亀が無邪気に這いまわる。
 あちら側とこちら側。薄い幕によって別れた世界。それだけのことなのに其の差は大きく、こちら側に来れたことに対し感謝の気持ちが生まれる。けれど何に対しどう表したらいいかわからないから、棚の上にキャンディーをひとつ置いた。
 想うのは、ライ麦畑から続く崖、孤独に光る灯台、海の上を渡る無数の鳥。夥しい数の不運と夥しい数の幸運が風に舞っている。

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物音


 真冬になり屋根から伝わってくる不快な音が消えた。何処に行ったのか、真冬は鳩がやって来ない。静かになったと想っていたら、ときどき夜中に物音がするようになった。真冬は猫も寒さで感覚が鈍るのだろうか。
 夜は家の玄関前が猫たちの通り道になっている。夏はそんなことなかったのに、朝見に行くと脇に立て掛けたデッキブラシやスコップが倒れていたりするようになった。

 鳩たちが立てる音はともかく物音は愉しい。叔父夫婦に頻繁に空き巣に入られ壱時は物音は全て開戦の調べにしか聞こえなかったが、やっと以前のように物音を愉しく感じられるようになってきた。
 家の柱の軋む緊張したような音、飽きたとでも言っているような犬の妙な鳴き声、菊の花の周りを飛び廻る忙しない虻の羽音、参年ほど前までははっきりと聞こえていた蛙たちの合唱、アスファルトを転げる落ち葉の乾いた音、耳ばかりでなく胸まで撫でてくれるような雨音、加湿器が湯けむりをあげるときの勢いのある音、・・・。それらを耳にしても鳥肌を立てなくなった腕。

 参時のお茶の時間にまるい缶からひとつチョコレイト菓子を取り出す。包みを破るときのカサカサした音にくちづけし菓子を口に入れる。音もまた味わうものだったと改めて気付かされる。

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早咲きの菜の花


 バスを利用するのに橋向こうの土手の道はたまに歩いてはいるが、こちら側の土手の道を歩くのは久し振りだった。見ると辺りには菜の花がぽつりぽつりと咲いている。じっくり考えてからでないと何事も始められない自分に、早咲きの花は例え細く弱い姿をしていても余計まぶしく映る。
 無風だと想いマントを羽織り家を出たのに、外は少し風があった。途中、テーブルはないが屋根はあり樹を切った椅子が置かれた休憩所に腰を下ろす。遠くの山並みはそれほど青くはないが、土手の上から眺めると遮るものもなく清々しい気持ちになる。河川敷には人が集まっていた。凧でもあげて遊ぶのだろうか。空が急に高くなる。
 休憩所に腰を下ろした途端に止んだ風。陽射しは熱く、菜の花が花を付けたのもわかるような気がした。

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