例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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期間限定



 期間限定、ベリィミックスのジェラード。そう記された紅い袋に入った氷菓の口を恐る恐る切る。あ、と壱瞬にして呼吸が止まる。表面に細かい氷の粒が付着していた。
 アイスクリイムは賞味期限がないと聞いているが、霜が付いてしまうのをどうしても回避できない。
 最後のひとつをだいじに食べる。次の夏も此の味が出ることを祈って。大概出ない。出ても味が変わっている。
 気が付くと毎日卵を産んでいた亀の水槽の水は白く濁ることが無くなり、御飯も今までのようには食べなくなった。
 毎日毎日、弐度と逢えない日々が過ぎていく。

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流れていく


 650ミリリットルも入ったよく冷えたペットボトルのお茶を戴き、整然とした部屋を出る。眼の前の問題をひとつひとつ無くしていく。其れは夫を見て覚えたことでもあり、其れが最善であり最善を尽くすことなのだと今は落ち着いた気持ちでいられる。
 或のどうしようもない気持ちを抱えた夏の日からまる参年が過ぎた。電車に乗り窓の向こうの流れていく景色を見ていると、過ぎ去ったものや過ぎ去っていこうとしているものが重なり感慨深い気持ちにさせられる。
 胸に留まるものと消えていくものがくっきり分かれていく。
 夏の暑さは衰えることを忘れたかのようまだ続いていて、百日紅と芙蓉の花が眼を掠める。あたしの心は折れてばかりいる。そのくせ負けないと云う気持ちが消えたことはないのだ。

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足の痛み


 左足の親指の付け根の辺りに痛みが走る。ぴっくと動く足に躯が硬くなる。昨夜拾時間眠ったところ、躯は幾らか軽くなった。それだけに痛みに驚く。さわると小指の付け根の辺りも痛みを感じる。
 風邪にしてもひき始めを逃すと、多少治った頃でないと医者にかかったことがない。其の都度、医者に行けるくらい元気なら苦しくないのに、とぽつりつぶやく。ことり、と落ちた何か。けれど、あたしは見もしないし拾いもしない。

 湿布を貼りおとなしくしていると、おやつにアイスクリイムを口にする頃には痛みはなくなっていた。
 電話が掛かってきて、明日は用事ができる。運はわりといい方だと想う。だいじな日を逃した覚えがない。

 家の中で歩き足の様子を見てみると、左足の薬指と小指の間が開き、小指が外へ向かっていた。廿代前半の足を思い出す。やっぱりこんなふうな足をして歩いていた。裸足になるのが恥ずかしかった。
 きみが音をあげそうになる合図だったのかもしれない、と小指をさする。躯ときたら本当に不思議。休みの取り方を覚えてもっと躯を見てあげようか。

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不調


 帰宅し壱夜明けると躯が重く硬くなっていた。ギブスでも付けたかのよう手足がうまく動かない。階段を上り下りし、家具の裏になり汚れてしまった家中の壁紙を綺麗にし、軽い運動がてら少し離れた店へ買い物に行っただけな筈が、何故か相当疲れていた。このままではまたぎっくり腰になってしまう懸念を抱き、腰を左右に動かそうとするが、それすらうまくできない。
 疲れを感じる人間と実際接しているのは今のところ母ひとりで、そちらの心配はそれほどない。気になるのは左足。未だに痺れの残る右足を庇って歩くようにしていたら、左足の裏に豆を作ってしまった。思いつくのはそれくらい。
 玖月はこちらでの生活はちょっと休憩。ショートして発火しないよう引っ越し先を整えておくことだけ考えよう。

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発した言葉


 常識や話のわかる相手でないだけに、断りもなく留守中に置いていった壺に困っていた。換金しようと何処からか持ってきたことは察しが付く。
 一応箱に納められてはいるが、どう見ても価値があるものと想えない。其れが自分の好みで手元に置くならわからないでもないが、そうでないことが判るだけに溜息が出る。

 腹が立ってばかりではつまらないので、ふと思い立ち壺の値を調べてみる。すると多くが〇〇焼き×佰圓とあり、ちょっと悪戯することにした。〇〇焼き売っても千圓と記し、怒っているカエルの顔を書き加えた張り紙をして舌を出す。
 玄関横の塵置き場にしてある処に出しておくと、毎週母を買い物に誘いにくるいとこがみつけ、あれは何かと訊ねてきた。事情を話すと、自分が持っていくよと言う。おそらく彼も換金できる処に持っていくのだろうが、持ち込んだ相手とは似て非なる。

 いとこを見送った後、ひとつでも汚らわしい物が無くなってよかった、とつい大きな声を出してしまった。自分で発した汚らわしいと云う言葉に自身で驚くと共に、躯を風が吹き抜けていくのを感じていた。

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