例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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おみなえし


 週壱で帰省していたため花を買えずにいた。部屋に生花があるのとないのとではなんとなく気分が違う。
 店先で眼を惹いたのはおみなえしだった。赤い鶏頭と束ねられていたので余計眼についた。
 けれど本当はおみなえしだけの花束が欲しかった。珊瑚のように見えるおみなえしだけを飾りたかった。

 何を見ても彼の姿を見てしまう。仕方ないことなどでなく、あたしには倖せなことだ。
 ・・・・・・・・・・。

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見せる収納


 此の樟脳の匂いはわりと平気、と言い、匂いの付いた桐箪笥の引き出しに壱枚壱枚手編みのセーターを入れていく。上段は引き出しと引き出しの間に隙間があり、引き出しを開けなくてもセーターが見える。見せる収納、と云う言葉を知り久しいが、正しくそんな感じだ。尤も扉が付いているので普段は見えないが、開ける都度愉しくなるだろう。此れは予想以上のこと。
 小さなことでいい。毎日其れがあるのとないのとでは全く違う。晩秋になりセーターを着始めてから春先までと、樟脳を替えるとき、それから編んだセーターを引き出しにしまうときも、桐箪笥を開けあたしはにこっと笑うだろう。好きに暮らすってそう云うことかと想う。
 そして壱番下の引き出しに彼に編んだセーターを入れるつもり。棄てる気なんて全然ない。独特のセーターの匂いを嗅ぎ、冬と彼をこれからも想ってあたしは暮らしていくのだろう。

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花火


 川沿いの町に花火が上がる。近所の人たちと同じように玄関の前に腰を下ろし、花火を観る。
 彼と一緒に新しくなった台所を使いたかったし、一緒に花火も観たかった。花火大会があるとひと言言えば、自分のビールやあたしが好きな果実入りの炭酸を買ってきたりカメラ用の三脚を立てたり、したことだろう。
 自分の内で生まれたどう仕様もない気持ちを容易く表に出す人でなく、あたしも自身の嫌な気持ちをひとりで処理できた。改装を終え暫く実家に帰省するつもりはなく、其の間に此処では必要ないと想い無くしてしまった耳を元に戻そうかと想う。
 一瞬空を割ってしまったのではないかと想うような花火の音に呼吸が止まる。息を吐いたのと同時に耳に飛び込んできた呼吸の音。××ちゃん、××ちゃん、と薄闇の中にあたしを呼ぶ彼の声がしていた。

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幻想


 あと参秒だった。眼の前をバスが横切っていく。後ろから手を振るが、バスは走り去っていった。田舎の人が親切だなどと云う話はせいぜいあたしが拾代の頃の話なのだけれど、走り去っていくバスに或のときも或のときもと思い出しては悲しくなる。そして、未だ玄関の戸を閉めずに生活していたり、宅配の人が其れをわかっていて届け物を置いていったりする地域があると聞くと、泣きそうになってしまう。
 母の家に着くと、クリーニングは終わっていた。昔は改装した後は埃だらけでと母は喜んでいるので、クリーニングもお願いし代金に含まれていることは黙っていた。
 思い出したように母が、妹がこちらへ来ると言っていたと言うので、母が家主だと云うことも忘れ、気に入った(信頼を置いている)人しか家の中へは入れませんと言ってしまい母の顔を窺うと、大きく頷ていた。去年の今頃、何の連絡もなく約束を反故されたことを母も忘れていないのだと知る。そして夜になっても伯母が来ることなく連絡も入らなかった。
 子供の頃から感じていたことを伏せるようにして生きてきたけれど、今は其れをだいじにさえしている。田舎だから、親戚だから、親だから、ともだちだから、教師だから、警官だから、・・・。なんて傲慢で、なんて愚かな言葉なんだろう、と。

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期間限定



 期間限定、ベリィミックスのジェラード。そう記された紅い袋に入った氷菓の口を恐る恐る切る。あ、と壱瞬にして呼吸が止まる。表面に細かい氷の粒が付着していた。
 アイスクリイムは賞味期限がないと聞いているが、霜が付いてしまうのをどうしても回避できない。
 最後のひとつをだいじに食べる。次の夏も此の味が出ることを祈って。大概出ない。出ても味が変わっている。
 気が付くと毎日卵を産んでいた亀の水槽の水は白く濁ることが無くなり、御飯も今までのようには食べなくなった。
 毎日毎日、弐度と逢えない日々が過ぎていく。

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