例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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摺り合わせ


 家で作ってきた鶏肉と大根の煮物をおいしいと言い、母が残さず食べてくれる。大根の厚さを必ず褒める母に笑う。其の都度あたしは保温調理鍋を彼に買ってもらった話をする。
 母に不満はあるが一緒に暮らせないこともないかと想う。たぶん其れはお互い様だろう。部屋を完全に分けられるようにしたこともあり、それほど心配していない。これから出てくるだろう介護の問題も自分が背負うなどと考えてなく、利用できることは全部利用しようと想っている。

 最初から他人に期待しない性格は悪くもあれば良いとも想う。信用は期待に繋がらないこともないけれど、期待は信用に繋がらない。
 期待に決して、普通は、などと云うものは適用されない。故に何があっても相手に裏切られたと云う感情は湧かず、そう云う人間だと云うことでいい。

 クズか、そうでないか、時々自身をみつめる為立ち止まる。黒い感情が湧いても、クズになりたくない部分に対しては必死になる。
 おやつに弐個目のアイスクリイムを手にとり、えへへと笑う。母も釣られて笑う。
 施設に入れる気は全くありません、と言うと、何処で聞いてきたのかよくない話をする彼女に、胸を撫で下ろす。摺り合わせは順調に行っている。

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周囲


 期限が今日までの口座振り込みをするのに、指定された銀行に行く。母名義の通帳をATMに通したところで金額が大きく窓口でないと振り込めないことに気付く。が、母の身分証を忘れていた。
 請求元が町で名の通った会社だったことと母の名が記された請求書に加え、自分宛ての依頼書を持参していた御蔭で事なきを得る。

 仕事を懸命になさる方と言うのか、自分が知ることを駆使される方と言うのか、自身の頭で動ける方は素敵だ。
 数拾分の時間を経て倖せになっていた自分。

 帰宅した母にデイサービスの様子を尋ねると、職員が急に壱度に肆人も辞めたと聞かされる。面接時に何でもしますからと言うので採用したと云う話まで母は知っていて、それどころか話ばかりしていて動かなかったと教えられる。
 てっきり人生経験が少なく齢上の躯のことも余りわからない若い方たちだと想い聞いていたが、違っていた。

 周りを見て、一緒になって、行動することを散々教育されてきたが、本質を意識しない限り人は動くことはできない。
 整理がつかず立ち止まっている自分。せめて周囲から学ぼう。

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仕様がない


 分解した珈琲ミルを元に戻そうとし本体に臼を差し込み粉受けを取り付けようとすると、粉受けがはまらない。本体の上下を逆にしてしまっていた。臼を外しやり直そうとするが、臼は外れなくなってしまっていた。
 是まで大概最初に大失敗している。分解が失敗
なくできただけに呆然とする。安いミルを選んでよかったと、また買ってこようと想い、泣きたい気持ちに蓋をするけれど、目線が下になっている。

 わかりやすい反応。わかりやすい自分。
 気温がまた丗度を超え半袖で過ごす壱日。窓掃除をした。のうぜんかずらも百日紅も淋しい姿となり眼に映る。
 傷だらけの椅子、草臥れたサンダル、錆付いた自転車、・・・。そんなものがいっそういとおしく感じられ顔を上げ立ち上がる。

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秋の音


 昨夜録画した音楽番組に彼の好きな楽曲が入っていたことを伝えると、遊びに来ていた友人とふたり見始めた。彼らは始めから終わりまで番組を観、知らない曲に興味を示し雑談をしている。
 好みが偏っているあたしと違い、彼らは知る範囲が廣い。だからと言いそのことで揶揄や侮蔑を受けたことはない。傍にいるのが心地よい、と想っていると目が覚めた。
 夢を見ていた。

 今朝は珈琲にした。
 珈琲ミルを分解し初めて洗ってみた。
 どんな簡単なものでも分解は苦手。壱度でできたので、彼に報告する。
 今日は一緒に公園の曼殊沙華を見に行こうか。きっと満開になっている。彼の仕草や声をなぞると秋の乾いた音が足元で響いた。

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玖月の終わる日に


 蘇芳色の毛絲は、絲が余り縮むことなく編み直ししやすかった。
 身頃を編み終え袖を肩から編もうとしたところで、計算と実際の長さが合わず、弐度やり直す。それでも気に入らず袖口から編むことにした。

 壱日無駄にしてしまったと想い、想った後で何故失敗したかわかったのだから無駄でもなかったと想い直す。
 体温は丗陸度肆分まで下がった。睡眠は拾時間とることがなかなかできず玖時間になっているが、調子はだいぶ上がったのではないかと想う。
 毎日編み物をする時間ができたことに安堵する。これから自分には難関とも言えることが待っている。混乱しないよう少しでも自分を整えておかないと。

 玖月も終わっていく。
 初めて乾燥花にしたおみなえしはすっかり黄色が抜けていた。遠くなる光。雨があがったら夏の光とは違う光がやってくる。わかっていながら夏ばかり想っている。

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