好きな音は邪魔にならない。
静物を眺めるように音を眺めていると、静物と同じように、或いは存在する大概のものと同じように、悲しみを内包していると感じる。けれど彼らが悲しみを口にすることはなく、眺めている自分が悲しくなることはない。生活に、日常に、入り込み、机の上や籠に納まり、時々あたしの内側を撫でたりもする。
好きな音楽は、特に冬か夏に聴きたいと想ってしまう。
夏になると必ず開く文庫本が数冊あるが、夏になると必ず聴きたくなるレコードやCDがある。何故かは未だにわからない。音楽を聴いていると雨や乾いた空気を感じることが多く、そのことがそうさせるのだろうか。
それから好きな歌は知らぬ間に口遊んでいたりする。
好きな小説の台詞をなぞるように、鏡の中に好きな映画の場面をみつけるように、ひとりでに。
気が付いたら右目(白目)が充血していた。じっとしていても暑さが疲労させる。エアコンをつけた部屋で壱枚だけ手に入れることのできた(CDでだけれど)阿部薫を聴いて過ごす。
冷たくなっていく腕。恐いくらいに静物に近付いていく(と感じている)自分にぽろぽろと泣いていた(気持ちよくて)。
