例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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髪を切る


 裁ち鋏で肆センチ落とすと、肩下程の長さになった髪は結ばなくともさして邪魔にならなくなった。なんとかリトルミイに似せた髪にもできる長さ。
 些細なこととも毎日となると気になってくる。面倒と想う前に取り除いてしまいたい。最後まで足元に何ひとつ置くことのなかった父のように、整頓された暮らしを自分がしているかは疑問だけれど、壱日壱日洗い流す気持ちを忘れたくない。
 明日は洗濯機を廻そう。そう想いシャツの袖口を石鹸で洗う。此の白が壱日にでも長く保てばいいと。

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零れ櫻


 昨日から花瓶の周りに花びらをみつけるようになった。外は櫻流しの雨が降っている。散るときは一緒なのだろうか。それとも敢えてそうしてくれたのだろうか。
 事実のみを追っていても隠れているものはみつからず、感情のみを受け止めていても歪んだ解釈しか得られず、彼の前で自身を整える。
 区切りをつけるだけで終わるものなどなく、ときどき烈しくゆさぶられる過去。
 川は花筏を作るだろうか。言葉にうまくできないものを呑み込んで流れていく、人も、昨日見た仔象もシマウマも山羊も。

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菜の花と柳の樹


 最後に或の菜の花畑と柳の樹をもう壱度見ようと想い、自転車を走らせる。
 青空の下で見る菜の花畑と柳の樹はそれはそれはまぶしく、たまにすれ違う人も土手の上の櫻の樹に集まる人たちも視界から消えてしまう。
 ふふっと笑う。今日何度ふふっと笑っただろう。自分しか知らないことは、自身を満たしてくれる。同時にせつない気持ちにさせられるものであっても。
 あちこち顔を見せたすかんぽに嗚呼此処でもと想い、桜草でいっぱいになる公園を思い出す。それから湖。それから・・・。自分しか知らないと想うことの多くは彼も知っていると想い直し、ふっと笑う。
 柳の樹の下であまえるようにくんと鼻を鳴らし菜の花畑を後にした。

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菜種梅雨


 雨が降る。
 雨音も、雨の匂いもやさしい。いつにも増した朝の静けさ。部屋のうす暗さ。
 壱杯の珈琲が温かい。

 昨日キャベツを買ったので千切りにしようか、アカシアの皿を出そうか、考えている。
 三月は雨がたくさん降ったので野菜が育ったらしい。きゃべつのやわらかな葉が嬉しい。
 椅子の下、脚が躍る。

 昨日バスの待ち時間に読み始めた「ムーミン谷の彗星」は、あと伍拾頁ほどで終わるから・・・。
 雨が好き。小声でつぶやく。
 そうして眼を閉じる。

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雨でなかったら


 平日に橋向こうまで行く丁度いい時間のバスがあったら、と風雨の強い日は想ってしまう。傘をうまくさそうとすると足元が覚束なくなる。
 遠くに見えるのは櫻並木。夕食は総菜で済まそうと、橋を渡り右に折れ土手の道を歩く。坂道を下る手前、満開になった櫻に足を止める。今度また面会に行ったときに母に見せようと寫眞に撮った。
 雨でなかったら遠くから見るだけだった櫻。日暮れは近く、辺りに人影は見られない。うす暗さと雨音が、過ぎ去った時間と今を繋ぐ。大人になったとき猫を想い、ひとりだけ大人になってしまったと泣いたけれど(考えたら猫の方が先に大人になっていたのに)、時を過ごすほど満ち足りた気持ちも増えれば声をあげ泣く回数も増える。
 櫻の前ですました顔をするあたしの寫眞が増えることはもうない。寫眞だけ彼と並んだ時のまま。動かない。

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