例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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ミルクキャラメル


 包みや形や大きさが変わっても、味が変わらないものは嬉しい。
 好きだったアイスクリイムや好きだった抹茶味やラムレーズン味のものは、ラクトアイスに変わったり味が薄くなってしまったり。そうなると弐度と食べなくなってしまう。
 できれば箱入りがいいのだけれどと想いながらも、袋入りで買ってきたミルクキャラメルの封を切る。

 幼少の頃何度も何度も買ってもらっていた。猫が家に来るまで、悲しかったりしたときは必ずポケットに入れていた。
 現れては消えていくいろいろなものを憶えてはいない。どんなに流行ったものも無いに等しく、関わったうえで愛おしさを抱いたものが自分に残っていく。
 味が変わらない限りきっと其れに対する自分の想いも変わらない。

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菊の切り戻し


 菊の花が終わり切り戻しをする。時期は、伍月頃と教えている人もいれば花が終えたあと行う人もいて、よくわからない。冬芽が出てきているので、古い菊は駄目になってもいい覚悟でどんどん茎を切っていく。
 自分の背を遥か高く伸びた菊の茎はこれが菊の茎だろうかと想うほど太く、剪定鋏がなかなか入らない。だったら抜いてしまおうと引き抜こうとすると抜けたものもあれば、びくともしないものもある。切り戻しが終えたのは弐時間後だった。
 小枝のように束ねた茎とひと袋では足りなかった塵袋に、拾伍年植えっ放しの家ってあるのだろうか、駄目にならずに此処まで育つなんて余程環境がいいと云うことだろうか、と塵袋と同じいっぱいになった頭を脇に寄せる。
 大掃除ではないけれど、壱年を束ねてみようと云う気持ちになっている。

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生息


 土手に行くといろいろなものがみつかる。
 川に浮かんだ月。遠くの青い山並み。菜の花や曼珠沙華。猫。そして今日はイタチ。橋の上から見ているのに気付かず、草むらを跳ねるように移動しては立ち止まりまた移動してを繰り返していた。

 音を立てずに歩くのは自分も得意。近付いては躯をぴくっとさせ一目散に逃げていく小さな生き物たちに、意地悪だったかなとくすくす笑う。
 此の間は雉を見掛けたり猪注意の立札に驚いたりしたけれど、イタチに遇えるなんて想わなかった。彼と啄木鳥に遇って以来の衝撃。野うさぎもイタチも丗年は見ていない。

 害獣と言うけれど自分は害を被ってなく、イタチの姿が見えなくなると何もなかったように橋を通り過ぎた。
 其々の場所で其々に暮らすあなたとあたし。互いに互いを知らなくとも静かな暮らしを・・・と想わずにいられようか。

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真似ること


 冷たい雨の降る中、のし餅が届く。思いがけない好意に手を合わせると共に、そんな季節になったことを改めて想う。
 硬さを確かめ包丁を入れる。包丁は水で濡らした方が切りやすいことを初めて知る。
 端の途中までになった肆角にならない餅は細く切りあられ用にし、大きな紙の上に拡げる。あとで弐階に持っていき干せばいいだろうか。此れは母がしていたこと。肆角に切った餅は適当な枚数づつラップで包み更にビニイル袋で包み輪ゴムで止め冷凍庫に入れる。此れは夫の母がしていたこと。これからもあたしは其れを真似ていくだろう。
 相手の存在や縁の有無などたいしたことでもなく、真似た指先が消えない想いを自分に伝えている。
 試しに焼いた餅はやわらかく、遠い記憶が蘇った。臼と杵と父の大きさ、其の横でできあがった餅に餡を詰めていた母。小皿をふたつ用意し箸で小さく切った餅をのせ父と夫に持っていく。反応する彼らの声が聞こえてくる。

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記憶


 元は伯父のものではなかったかと想う合皮の黒いジャケットを羽織り、地図を見ながら朝の町を歩く。回覧板に入っていた公民館の清掃のお知らせに、どの公民館かと問いを入れたほどわかっていない。公民館に掃除道具は置いてあるだろうと想ったが、軍手の他に乾拭き用の雑巾をリュックサックに詰めてきた。
 時間丁度に着くと、其処には班長さんがいた。此の辺掃いておいたが、あとはきれいになっているのですることはないんだよねぇ、と言う。もう壱軒いらっしゃたようだが既に人影はなく、せっかく来てもらったのに、自分は何もせずに、と笑って終了となった。
 期日を憶えていたのはどうやら参軒。真面目だと言われてきたことを想う。そこには感心ばかりでなく揶揄もあったが、これで信用を得てきたのでいいではないか。

 それほど人は記憶しないし、正確に記憶もしない。自分も記憶が抜け落ちてしまったことの方が圧倒的に多い。そして人は自分の都合のいいように記憶すると言うが、自分はそうでもない。会話を結構憶えている。御蔭で他人の整合性を疑ってしまったりもする。自分にはたかが半年前に過ぎないのだが、人により半年も経つと改竄と言えるほど事実と異なる記憶を口にする者もいた。
 父や夫の記憶は自分と似ている。そう云う環境も大きかったと想う。
 自分の都合よくでなく、あたしはできるだけあたしをそのまま憶えていたい。あなたのこともできればそのまま憶えていたい。

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