例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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ゆるい目標


 紫陽花を綺麗に乾燥花にするには枝を折る時期があるらしいが、あたしはそうでなく花瓶に活け萎れたものを吊るして乾燥花にしている。花の形はなくなり花びらがくしゃくしゃとしたものができあがるけれど、其の造形も愛らしいと感じる。白い紫陽花に青い紫陽花にガクアジサイにと一緒にして束ねれば、尚更愛らしい紫陽花の乾燥花の花束ができあがる。
 基本や手本通りにするのは難しい。やっと此の頃箸の持ち方がなんとかなってきた。足し算も多少時間がかかるものの皆と同じやり方で計算できるようになってきた。幾つまで生きられるかわからないけれど、漆拾歳くらいまでにはきちんとできるようになっていればいいなと想う。
 あたしの目標は随分とゆるいものなんだろう。亡くなる方が先になるかもしれない。例えそうなっても悲しくならないよう、挫折もあきらめも後悔も遠くへ流してしまった。

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なくならない気持ち


 生きていくことに対しての気持ちは何とかなるものなのに、生きていることに対しての気持ちは頻繁に手に負えなくなるもので、ぼうっとしては我に返る繰り返し。椅子に座るとそうなることが多いので、なるべく座らないようにしようと想うのだけれど、椅子に座らないとできないことが結構あって困ってしまう。
 いっそのことそのまま眠りにつける椅子でもみつけた方がいいのだろうか。
 どんなに工夫してもなくならない気持ちと或の日から一緒にいる。

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ぽわぁぁん


 タッチパネルを操作していた。其処はレコード店で、「せっちゃん」の盤を探していた。うまく操作できないあたしの背後には彼がいて、躓く都度腕を伸ばし教えていた。隣りのタッチパネルには彼の友人たちがいたが、そろそろ飲みに行こうと云うことになり店を出た。
 皆して自転車を置いてきた場所へ向かう。車の置いてある脇の余った空間でなく、学校のように屋根がある置き場所だった。自転車を出すときもうまくできずにいると、彼が出してくれた。
 気付いたら男子は男子、女子は女子で固まっていて、彼も男子の方へ行くのかなと想っていると、女子のひとりと話し込んでいた。どうやら飲みに行く店を決めているようだった。

 ああ、そうそう、彼ってそうだな、と想いながら夜中に目を覚ました。外で声がしている。起き出して時計を見ると零時前だった。布団に戻りうとうとしながら彼のことをぼんやり想っていると、ぽろぽろと泪が零れてきた。
 参年経ったら諦めがつくと言われたけれど、諦めとは何だろう。父を想い猫たちを想う。同じようにこのままぽわぁぁんふぉわぁぁんと想いを抱いて、当たり前のように話し掛け、あたしは此の先も過ごしていくのではないだろうか。

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バーベナ・ボナリエンシス


 家の角にいつのまにか生えていたのは、どうやらバーベナ・ボナリエンシスと云う名の植物らしい。うす紫の小花をたくさん咲かせている。背が高く育つが葉が少なく邪魔にならない。
 傍に豆苗を植えたけれど、植えなくてもよかったのかもしれない。だいぶ育ってきていて今更抜くわけにもいかず、卓に座り頬杖を突く。想った通りになったことなんてないかもしれない。(概ね想った以上に良いものを得てはきたけれど・・・。)
 摘んでも摘んでも咲くので、気にせず摘んで花瓶に活ける。
 家の角も花瓶も、此の花でいっぱいになったら素敵だろうか。あの人もこう云うこと嫌いじゃなかったなと想い、お茶の時間でもないのにまた彼の名を呼んでいた。

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雨の降る音


 雨の音がしている。降り続く雨。なかなか止みそうにない。
 あたしの躯は雨を通すものでないのに、雨の降る音をずっと耳にいしていると躯を雨が抜けていくような錯覚をしてしまう。
 いつのまにか現れた記憶。あたしの耳をなでると、雨と一緒になり躯の中を流れていく。あたしより大人だったぶち猫、西瓜を買っておいたと遠くから教える父、後ばかりついてきた黒のとら猫、長い髪をしていた彼、お気に入りの場所に連れて行ってくれた彼女、・・・。次から次へと流れては、あたしの内側を洗う。

 夕刻雨が上がると、大好きなトーキングドラムの音が耳にあふれた。いつか颱風明けに聴いた或の音も、しっかりとあたしの記憶になってくれたらしい。

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