例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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野菜の誘惑


 安かったとは言え袋に弐本入っていたズッキーニをどうしようかと、冷蔵庫を開ける都度想う。少しづつ使っていけばいいのにあれもこれもと考えてしまう。やっと弐本とも塩もみしオリーブ油に絡めることに落ち着いた。
 黄色いズッキーニは緑色したズッキーニよりやわらかく、塩もみにしろ炒めるにしろとろとろになり嵩が減る。ヨーグルトを乗せサラダにして食べると、更に減ってしまった。
 玉葱の酢漬けもツナと胡瓜の和え物も人参のラぺも壱週間食べようと結構な量をこしらえるのに、壱週間持った試しがない。
 冷凍庫で硬く凍った肉や魚に、今日も頭から抜け落ちてしまいごめんなさいと謝りつつ、明朝は玉葱を焼いてパンに乗せ、そこにプチトマトとチーズを乗せて・・・、と考えてしまっていた。

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丸眼鏡


 徒歩伍分、おそらく此の町唯一の眼鏡店にも丸枠が数種類置かれていた。小振りなものはみつからないときがあるが、幸いみつかり新しく眼鏡を作る気になった。
 今の丸枠が気に入り、うっかり踏んでしまい左側の智の部分が斜めになってしまっても掛け続けていた。
 近視が強く此の店でも壱週間掛かると言われたが、逆に考えれば壱週間も心待ちにしていられると云うこと。

 憧れはジャニス・ジョプリン。大きめな丸枠の眼鏡と笑顔の愛らしさに魅了された。大きな丸眼鏡は自分に似合わず小振りなものとなったが、気に入って丸枠ばかり選んでいる。たまに、ジョン・レノン?と言われることもあるけれど、あたしの丸枠の眼鏡の憧れはジャニスでしかない。
 彼女のように笑えはしなくても、死ぬまで丸枠の眼鏡を掛けていたい。

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朝な朝なに


 寝相が悪いので当然寝癖も酷いものになる。後ろで結わえたくらいではどうにもならず、ヘアアイロンと格闘する朝もしばしば。毎朝同じ癖がつけば少しは楽になるだろうに、様子は毎朝違う。
 花瓶に活けた花も自分の寝癖と一緒だとふと想う。
 萎れていたり茎の先が茶色になっていたり花が落ちてしまっていたり、と毎朝昨日と違う姿になっている。毎朝整え今日の姿をこしらえなければ、きれいでいてくれない。尤も比べたなら自分の寝癖よりは素直で整えやすいけれど。
 毎朝少しづつ整え、壱週間を過ぎてもなんとか元気でいてくれる茱萸の枝と紫陽花のひと枝に朝の挨拶を届け、カーテンを開ける。朝の光はいつもやさしい。悲しみであふれてしまったあたしの寝癖にも。

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梅雨


 箪笥の前で、春に夏服を探し、梅雨に春服を探す。
 台所で、春にレモネードを作り、梅雨に温かな珈琲を淹れる。

 長袖を壱、弐枚買えばよかったと想い、割烹着を着て壱日をやり過ごす。
 紫陽花のひと花は壱週間以上持ち、冷たい水がまた苦手になった。
 頭痛やぎっくり腰になったらとはらはらしては、小雨にならないかと曇り空を睨む。

 雨音が耳に届いたなら小さな憂鬱は何処かに行ってしまうのに。
 今週の贅沢はブルーベリィの実。
 藍色を眺めては、そろそろ萬年筆にインキを入れてもいいかなと想っている。

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片方だけのイヤリング


 久し振りにイヤリングをつけてみる。躯がみっつに分かれ、其々金具で繋がれている鰐は、指先でつつくと首や尾を持ち上げたり躯をまるめたりする。今ではつきあいのない人に戴いたものだが、あたしの好みをわかっていた人だったなあと今も感心する。
 好きなアーティストが公開ラジオ番組に出演すると知り、観に行った帰り道に片方落してきてしまったが、片方だけになってから余計愛着を持つようになった。何故そんなふうに想うようになったのかはわからない。片方だけになったことで、いつしかお守りとまで想うようになっていた。
 元気になりたいと想ったとき、鰐や蠍や水牛の頭のデザインのものを身につけると気分が違ってくる。服装に似合わなかろうが、自分で自分だと想えたなら身につけるのがいい。明日は革製の無骨なリストバンドでも出してみよう。

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