例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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今も


 ブルージーンズを久し振りに穿いた。リーバイスでもエドウィンでも国産でもないけれど、残った壱本。
 ジェームス・ディーンにローリング・ストーンズのアルバムジャケットに・・・、と重ねられた記憶の藍色は夜明け前の空の色。村上龍や中上健次の小説にも想い浮かべた藍空。

 棄てられないものは続いているもの。これからも続いていくもの。
 彼の穿いていたジーンズを詰めた箱を開けたら、いつかの空が飛び出してきた。

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だんだん


 葉が茶色になってしまったガジュマルやブーゲンビリアが壱枚壱枚葉を落としていくので心配していたら、枝の先に新しい葉をつけていた。小さくて眼を凝らさないとそれとわからないくらいだが、小さくても緑色をしている。

 鉢植えを外に出そうと玄関を開け、縁側に廻ったところで物音が耳に響いた。眼をかすめていく塊を追うと、茶トラの猫だった。途中で立ち止まったので声を掛けると振り向いてくれたが、その先どうしていいかわからない。
 大きな種類の猫でもなさそうなのに山猫かと想うくらい大きくまるまるとした猫に、猫で合ってるよね?間違いないよね?と掛ける言葉が声にならない。猫の方もどうしていいかわからないと云うようにじっとしている。
 暫くみつめあった後、手を振って別れた。

 季節が進んだり戻ったりしつつもだんだんと暖かくなっている。雪解けなどない代わりに、うちは猫の心配があるのだったと思い出す。
 鉢植えの植物にまでわさっと絡んだ、猫の毛を、集めたりしや、春の庭、・・・・・。

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抹茶ラテ


 届いていた封書の件で返信すると、想っていたのとは異なる例での連絡だったとわかる。
 父の死後あたしに連絡が付かず、其の間に発生していた賃貸の未払いがあると言われた。小遣い銭ほどの額であったが、想ってもいなかったことに神様からの贈り物だと想い何か素敵なものに換えようと想う。

 散歩に出てみつけたのは、うす紅色のこぶりの椿の枝とうす紅色の馬酔木の花束。
 華やかになった台所に、久し振りに抹茶ラテをこしらえる。カップの中で小さな泡立て器にお湯と交じっていく抹茶の緑がまぶしい。
 当分曇り空続きの天気だと云うが、あたしの手はかじかむのをやめ動き出している。

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おはよう。おやすみ。


 朝漆時、牛乳で紅茶葉を煮出し濃いミルクティーをこしらえる。藍色の皿にのるのはライ麦の匂いのするパンとクリイムチーズに小さなトマト。溜まった葉書きや封書に眼を通す。
 例年に増して来月は手続きが多い。乗ったことのない路線のバス、行ったことのない町、利用したことのない公共施設、・・・。折角だから買い物もしてこようと想うのだけれど、其れは迷わなかったらの話。

 なずなをみつけた場所にももう壱度行ってみようか。
 此の拾日ばかり拾時間以上睡眠に充て、躯も頭も軽くなった。
 誕生日を迎えても数えるのは自分の齢でなく彼の齢になったけれど、彼がそうしてくれていたように今年も何かひとつ買おうかと想う。

 おはよう。おやすみ。他愛ない毎日が紡がれていくことに、あたしは泣くようになった。

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僅か参センチに


 アルパカ入り天然そのものの色の絲は、投げ売りでひと玉参佰圓。白が肆っつ、薄茶がふたつしかなく、一緒にして編んだ。
 身頃は袖の部分を減らし目をせず、真っ直ぐ編み、袖は身頃と合わせる部分にボーダーをふたつ入れた。できあがったのは、さわやかなセーター。
 チェックやボーダーの柄は合わず、ボーダーの服ときたら壱枚も持っていないのに、なんとかなると想った。それなのに、部屋着にするでも上に何か羽織らなければ恥ずかしい。
 軽く、あたたかく、絲はほんの数センチしか残らず無駄がなく、躯に合うものができたと云うのに。またうんうん悩み、ほどくことになるのだろうか。

 繰り返し繰り返し、進むのは壱ミリ程度の日々。僅か参センチに悦んで花を飾ったりケーキを買ったり。
 けれどそんなときの誰かの顔がきれいだったりして。いとおしくなる。

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