例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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暖簾


 客間から台所と自室へ向かう扉を開放し暖簾を下げる。客人など滅多に来ないものの、廊下がない間取りの家に区切りをつけるには暖簾が最適かと想う。何処でも自分の好きにできる家でだらしなくでなく心地よく過ごすには、区切りは必要だった。
 暖簾と言ってもガーゼのバスタオルを弐枚(商売をしているわけではないので縁起は無視)使ったものだが、金魚の柄が夏向きで丁度いい。
 暖簾をくぐると、其処は自分だけの空間となる。好きなことをして笑うにも、時々やってくる虚無感と過ごすにもいい場所になりつつある。疲れ切ったあたしを花瓶に活けた花がなぐさめる。奥には彼の法名軸が掛かっている。暖簾をくぐれば其処はあたしの帰る場所。

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互いに


 大判のバスタオルが肆枚。値札がついたままのものが壱枚、母が使ったかどうか定かでないものが参枚。自分には大き過ぎるものは使い辛いのに、と溜息を吐くも、いとこはあたし以上に母が使ったものを気にせず使うことを思い出し肆枚とも袋に入れる。そんな関係だから度々見舞いに来てくれるのだろう。
 自分といとこふたりとなら多過ぎることもないだろうと、餅を切りこしらえずっとそのままにしていたあられを揚げる。夫も父も此れが好きだった。ついでに玉葱をリング揚げにする。其れを保存容器に入れ、タオルを入れた袋と一緒に客間の卓に置きいとこを待った。
 ひとりでは気が乗らないことも、ひとりふたりと想うと動き出す。

 適切な距離感とあっさりしたつきあい。親密である必要はない。礼節を軽んじることがなければいいのだと想う。大切なのは、互いの考えが一致してしていることだけれど。

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拾弐日めの朝


 ひとつだけ元気にしていた紫陽花も、おいとましますとでも言うように頭を下げていた。数えて拾日めの朝だった。
 花はそこまで乾いていない気もするけれど、茎は乾いて硬く強くなったので、ジャムの空き瓶に紫陽花の乾燥花をまとめて挿し飾ってみた。色が抜け他の小物の中に埋もれてしまっている乾燥花も、光が射せば美しい姿を見せてくれる。
 保存容器に入れた珈琲豆も入れた日から同じくらい経っている。半分以上減った豆に、改めて時間の流れを感じる。そして、少しづつ少しづつ、と言っては今日も泣く。
 相変わらずのまぶしい朝。卓に置いた寫眞の彼は変わらずに笑っている。遅れてあたしもついていく。

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野菜の誘惑


 安かったとは言え袋に弐本入っていたズッキーニをどうしようかと、冷蔵庫を開ける都度想う。少しづつ使っていけばいいのにあれもこれもと考えてしまう。やっと弐本とも塩もみしオリーブ油に絡めることに落ち着いた。
 黄色いズッキーニは緑色したズッキーニよりやわらかく、塩もみにしろ炒めるにしろとろとろになり嵩が減る。ヨーグルトを乗せサラダにして食べると、更に減ってしまった。
 玉葱の酢漬けもツナと胡瓜の和え物も人参のラぺも壱週間食べようと結構な量をこしらえるのに、壱週間持った試しがない。
 冷凍庫で硬く凍った肉や魚に、今日も頭から抜け落ちてしまいごめんなさいと謝りつつ、明朝は玉葱を焼いてパンに乗せ、そこにプチトマトとチーズを乗せて・・・、と考えてしまっていた。

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丸眼鏡


 徒歩伍分、おそらく此の町唯一の眼鏡店にも丸枠が数種類置かれていた。小振りなものはみつからないときがあるが、幸いみつかり新しく眼鏡を作る気になった。
 今の丸枠が気に入り、うっかり踏んでしまい左側の智の部分が斜めになってしまっても掛け続けていた。
 近視が強く此の店でも壱週間掛かると言われたが、逆に考えれば壱週間も心待ちにしていられると云うこと。

 憧れはジャニス・ジョプリン。大きめな丸枠の眼鏡と笑顔の愛らしさに魅了された。大きな丸眼鏡は自分に似合わず小振りなものとなったが、気に入って丸枠ばかり選んでいる。たまに、ジョン・レノン?と言われることもあるけれど、あたしの丸枠の眼鏡の憧れはジャニスでしかない。
 彼女のように笑えはしなくても、死ぬまで丸枠の眼鏡を掛けていたい。

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