例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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柑橘類の匂い


 ポンカンの匂いに負けて、皮を湯船に浮かべる。眼を閉じて頭の先まで浸かり、海月のようにゆらゆら揺れ、このまま朽ち果ててもいい気分でいたのに、脚がぴりぴりした刺激を感じ始めてしまう。
 オレンヂとメロンはときどき、金柑は食べる都度唇が痺れる。口に入れても平気で、好きだから食べているけれど、パイナップルは弐度と口にしなくなった。
 肌がすべすべになると、おもしろがってオレンヂや桃の汁を腕にぬったあとも、ぴりぴりとした刺激があった。

 どれが欲しい?、と彼に訊かれ、応えはいつも同じだった。選んだのはオレンヂか檸檬かライムだったエッセンシャルオイルが少し残っているので、卓に置いたはいいものの、そのままにしてある。
 匂いは泪を誘うから、ぴりぴりとした刺激を感じるくらいが丁度いいのかもしれない。そう言って躯を冷やしながら彼を想って泣いた。

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春と風と


 春は強風とうまくつきあえるかつきあえないかで気分が変わる。
 昨日自転車のパンク修理を頼みに壱軒目の店を訪ねると参日程かかると言われ、弐軒目の店を訪ねると休みだった。今朝其の弐軒目の店を訪ねるとやはり休みで、風が強くとも遠い店まで歩かなければと想っていると、少し歩いたところで輪業の看板をみつけた。
 自転車修理をしている店の名と同じだが、オートバイを専門に扱っているようだった。駄目もとで尋ねると、自転車修理もしているが今日は他の依頼が色々ありできあがるのは午后参時になると言われる。勿論預けた。
 風があたしを避けていく。否、あたしが風を避けていくのだろうか。
 強風の日はいつもと違う歩き方になる。飛ばされないよう脚を開いて歩くので腿の内側が筋肉痛になってしまったけれど、何故だか今日は平気。脳の誤作動で傷みの重さが違ったりすると聞いたことがあるが、気分がいいせいだろうか。昨日まで重かった頭痛も軽くなっている。

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雉の姿


 昨夜病院から母が高熱があると連絡が入る。丁度今日は面会日で、自転車を走らせる。畑の中央に動くものがあり、目を凝らすと雉と判る。此処にもいたね、と彼に話し掛ける。
 肆拾度の熱があると聞かされるが意識はしっかりしており、時間が来て立ち上がるあたしに、気をつけてね、と彼女は云う。医師の説明では、尿道のカーテテルを抜き薬を入れても熱が下がらないので今日首元のカーテテルも抜いた、と云うことだったが、何が原因か検査結果が出るまで弐、参日かかるらしい。
 雉は帰り道にも現れ、土手の上で立ち止まった後土手下へと飛び立っていった。初めて雉が羽を広げる姿を眼にし興奮し、飛ぶなんて知らなかった、と彼に振り返る。
 いつのまにか後輪がパンクしていた自転車も気にならず、不思議と落ち着いた気持ちでいた。

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陽射し


 強風の為閉めたシャッターが作り上げた暗い空間に灯りをと想っていると、洗濯機の背後が明るく陽射しを意識する。母の部屋にしてもベッドの周りが以前より明るく、台所も西側の窓から入った陽射しがカーテンの隙間から覗いていた。
 月が変われば此処でひとりで暮らすようになり壱年。そろそろ客室件母の部屋と其れに続く和室を、今の暮らしに合わせ模様替えしようかと云う気になってきた。ベッドはトイレ近くと云う母の希望と在宅介護を考慮し、客室と母の部屋が一緒になったのだけれど、結局在宅の介護の必要はなくなった。
 自分の暮らしの頭に置くのは、どうにでもできること。そして、ずっと倖せでいようと云う想いが夏の強い陽射しのようにあたしを照らす。

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未明


 暗い中、雨音で目が覚める。朝は遠く、空気が重い。
 何に対しても反省する癖は抜けないが、懸命であったことが完璧さを打ち消す。けれど両方であったなら尚いいと想ってしまう。
 より良い朝を迎えたい。
 睡眠中の噛み締める癖を補助する為のマウスピース、高さの合う枕、お気に入りのセンサーライト、を傍に、うとうとしながら明朝は新玉葱を炒めてパンにのせようと考える。
 雨音はしだいに調べとなり空になっていく頭。何処か岸辺まで流れていく躯。洗われて今日も朝に辿り着く。

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