例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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やぶれやの暮らし


 外は晴れたり降ったりめまぐるしい。
 ご飯を炊こうか迷い、止してまず薄く切ったズッキーニをオリーブ油で炒める。味付けは塩と胡椒で。それからじゃがいもを千切りにし、此れもオリーブ油で炒めた。ガレットにしたかったので、千切りにしたあと水には通さずフライパンに放り込んだ。失敗を避ける為チーズを入れる。
 卓にプレイスマットを乗せ、皿を置くまではいいのだろうが、ナイフとフォークは滅多に使ったことなく、ガレットはレタスの葉など包むものを用意し手摑みで食す。

 おしゃれとは無縁の暮らし。
 母のお下がりのLサイズのキュロットパンツ(ガウチョパンツと言われているものだと想う)に新たにゴムを通し、昨日から穿いている。
 家の電話は黒電話。Wi-Fi工事をしてもらったとき、電話契約とセットにすると安くなると言われ貰った電話番号は結局使用していない。黒電話も受話器を取り、録音ボタンを押さなきゃあと言っている間に向こうから切ってくれるので、今のところ問題ない。
 おやつの珈琲ゼリーは買ってきたものだけれど、味が薄かったので、器に移し牛乳を注ぎインスタント珈琲と砂糖でこしらえたクリイムを乗せた。

 壱度花が終わったと想ったゼラニュームは、玄関先でまたどんどん花を咲かせている。
 あたしは今日も卓に肘をつき椅子の上に片足を乗せ、扇風機の向こう玄関から家の中へ伸びる光を眺めている。

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落とし物を届け


 警察署の落とし物係りを訊ねた。
 持って行ったのはナップザックだった。

 金曜日の深夜弐時過ぎ、表が騒がしく目が覚めた。「さすがにヤバいんじゃねぇ?」「上れんじゃねぇ?」と中高生ほどの男の子の声が耳に入り、悪戯でもする気だろうかと窓を開けると、もう其処には誰もいなかった。
 そして土曜日の朝、弐階に上がり窓を開けると壱階の屋根の上にナップザックが乗っていた。
 取りにきたとして声が掛かることはないだろうと想い、電柱に括りつけておいたがひと晩経っても取りにくることはなく、日曜日の夕刻警察署に連絡した。

 ナップザックに入っていたのは使用後と想われる靴下にシャツにタオルだった。タオルには辛うじて名字が記されていた。
 物が物だけに面倒な手続きもなく、あたしの方は簡単に済んだが、警察の方ではどう処理するのだろう。学校に連絡が入り持ち主がわかったところを想像すると、気の毒にさえなったが仕様がない。
 不法侵入で屋根から突き落とされるより痛くはないと想う。

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晩餐会


 昨日と同じに夕食はひつまぶしになった。
 安価で購入できる券を手に入れ参枚購入し、うちで壱枚、残り弐枚をいとこたちにおすそ分けした。すぐに食べなくともよかったのだろうが、丁度紫蘇も茗荷もあり今日になった。但し彼の好きな山椒がなかったことに気付いたのは、食べ終わってからだった。

 小皿に父と彼の分。母もひつまぶしならひと口味見するだけでなく、壱食分食べたのだろうか。
 どうせならワンピースに着替えてもよかったかもしれない。
 カエルの人形たちを客人にしての晩餐。デザートにアイスクリイム。音楽をかけてもよかったなと後から想う。

 質素にでも豪華にでも、厳かにでも賑やかにでもできる夕食の時間。ただお酒を飲む彼のように弐時間も参時間もかけることはなく、廿分もあれば終わってしまう。大勢でもひとりでも愉しむことを本当に知っていたのは誰だったのか・・・。
 ときどき彼の為だけに、あたしは小皿を用意するようになった。

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曇り空の日の世界


 晴れた日より小雨の日の方が好きだった。雲ひとつない空の色がいい色だと想ったことがなく、雨に濡れ輝いて見える樹木の色が好きだった。空気もひんやりとやわらかく、雨で出掛けることをやめたときには別世界に閉じ込められてしまったように想え胸が弾んだ。
 曇り空の日も好きになったのは、日光アレルギーになってからだった。
 昨日に続き今朝も気温が丗度に達せず空も曇っているとわかると、自転車を出さずにはいられなかった。大きな橋を自転車で渡る。行きは自転車に乗って、帰りは歩きで。
 高い場所にいると、頭が何処かへ持っていかれてしまう。感覚は残り、肌に当たる風や眼に映る草や川の緑に釘付けになっている。飛んでもいいなと幾度も想ったのだけれど・・・。
 橋を下りたところにある店で、小岩井のヨーグルトを買った。壱年振りとか弐年振りになるのかもしれない。それくらい振りで買うと、他の知っているヨーグルトとの違いに驚かされる。容器を直接口に当て、其れを今朝出逢ったものを自分の内にしまい込むかのようごくごくっと飲んだ。

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自転車に乗って


 丗度を下廻った気温。昨日烈しい雷雨に備え北側ばかりか南側のシャッターも下ろし、余計に部屋がうす暗くなっている。そのせいか朝がより涼しく感じられ、ふいに家を出たくなる。
 線路沿いを何処までも行けたらよかったのだけれど、線路なんて通ってなく、知らない道を自転車で走った。走っている道が県道なのかどうかもわからない。高く大きな建物が何であるかも知らない。ちょっとした冒険。そんなふうに想えて昔観た映画を思い出す。それから彼や彼の友人たちと過ごした夏の日のことを。
 いつだって今は此の瞬間にしかない。そして過去のどの瞬間にも弐度と逢えたことはない。あたしの内で交錯する過去。夏かと想えば、次の瞬間辺りは壱面の雪景色になっている。絶え間なく現れる時間、絶え間なく過ぎ去っていく時間。速さについていけないと想った瞬間脱げた帽子がうなじをくすぐり、自転車を止め帽子をかぶり直す。
 未来に夢なんて求めない。此の瞬間に命を託すだけ。揺らしてるだけ、揺らしてるだけ・・・。帰りはBLANKEY JET CITYの歌を口遊み自転車を漕いだ。

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