例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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今日も暑い


 「九条削除、男系皇統、子供一人につき月10万円、・・・。」
 扇風機の風に煽られ、選挙公報の紙が歪んでいく。
 あたしはと言えば相変わらず整合性に道理、損得に搾取を好む人間について考えている。

 暑い日でも家の中より外の空気の方が気持ちよく、亀たちの様子を見るためでもあるけれどときどき玄関先に立つ。
 上から下まで細かくペンキが飛び散った柱にやっと手を付ける気になり、へらで削っていく。壱遍には無理で、高い箇所は残ってしまった。それから樹木を組んだ棚を雑巾掛けした。
 放置されたとも廃棄されたとも言える物を片付け、種類ごと塵袋に入れ、月に壱度の燃えないゴミの日にふた袋づつ出していたら、棚も棚の周りもすっきりしてきた。
 地味で根気のいる作業。けれど、できるところまで自分でしたい。其の後は任せる相手を間違えないように。

 今日も暑い。
 冷凍庫に入れたシャーベット状にしたヨーグルトとシャーベット状にしたトマトをそれぞれ皿に盛り、がしがしと食べた。

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今日の書き殴り


 空をおおってしまうかと想うほどではないものの、此の町でも百日紅がみつかり足を止める。
 百日紅の花も、櫻貝を拾った海も、薔薇の公園も、記憶が上書きされることなく、例えば百日紅と言ったら或の通りと或の道に咲いていた百日紅が瞼の裏に笑う。
 瞼の裏に浮かんだのは過ぎ去った時間ではあるものの、瞼の裏をみつめているのは今で、決して過去を懐かしむとか振り返っているのでなく、今の瞬間を感じていればこその胸の痛みが此処にある。

 トイレットペーパーを黒い文字だけが記されている白い大きな紙袋に入れてみると、トイレがすっきりした。
 トイレから続く洗面台も浴室も白。夏はあちこち扉を開け放しているので、余計白が眼につく。
 胸に走る痛みを撫でるには白がいい。どうしてだかわからないけれど、白いものの傍で長い息を吐き出すと苦しさが抑えられる。

 小学校にあがるまでともだちは猫に人形、白い紙にクレヨンに絵本、庭のスミレにえのころ草、父が納屋に置いていた古い道具。
 つきあえるまで難しかった。乱暴にすると嫌がられた。なかよくなれば、どう表現していいかわからないほどやさしかった。

 百日紅も白い色も自分に無理をさせない。泣いたり笑ったりしていられる。子供の頃の感覚が戻ってくる。それは彼とも等しく、あたしを倖せにする。

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梅雨明け


 茄子の塩もみ、冷や奴、胡瓜の酢漬け、人参のラぺ、細かく切って冷凍したトマト。其れを炊きあがったばかりの五穀米ご飯に添えた夕食。肉も魚もないけれど、昼は昨日の残りの蒸し鶏を食べた。
 台所で持ってきた扇風機が廻る。以前は和室で使っていた。頭痛を起こさない風の強さ。

 箱にしまったままだった扇風機も今日出して自室に置いた。
 此れも風が強過ぎることはない。最初あたしが此れが欲しいと言うと、値段の問題で却下されたが、間もなく、其れも突然台所に置かれていた。
 納得いくくらいに値が下がったんだよ、はい、〇〇ちゃんに。彼はそう言ったけれど、専ら使っていたのは彼だった。
 参年振りに出した扇風機はリモコンの電池が切れていた。

 梔子はみつからないまま梅雨が明けた。
 今年も暑いって、と言うと、それだけで泣けてきた。

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愛燦燦


 あたしが来たことがわかると途端に笑顔になる。そして、突然うたってと言われ、頭が追い付かない。どうやらカラオケに行った記憶が現在流れている時間と一緒になっているらしい。
 かあさんがうたってよ、と言っても首を振る。母が知っている夏の歌をと考えるが、真っ先に浮かんだのは甲斐バンドの嵐の季節だった。其の後で浮かんだのは甲斐バンドのシーズンにブルーレター、ストリート・スライダーズのエンジェル・ダスター、モッズの激しい雨が、真島昌利の夏の朝にキャッチボールを。
 どうしようと想っている間に母がまた別の話をするので、相槌をうち聞く。そうして話が途切れた処で今度はあたしが町の祭りの話をすると、母が其れに応えていたが、またうたってと言う。
 何の歌がいいの?と顔を覗き込むようにして訊ねると、眼がきれいだね、と言う。

 あたしには、もう母が天使。
 他を貶めるようなことも不平不満も愚痴も言わない。他に感謝したり他を褒めたりしているのを聞いていると、此の先認知症が進んであたしを忘れてしまっても其れが何と想える。
 帰ってから、美空ひばり(小椋佳)の愛燦燦でもよかったのかな、なんて想った。

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有限


 年齢が上がるに連れ時間が長く感じるようになる、と聞いているのに壱向に其の気配がない。
 睡眠時間が多すぎるのか、昼寝してしまうからなのか、要領が悪いのか・・・。其の全部なんだろう。

 夕刻から冷房や除湿をするようになった部屋を最大限有効活用しようと始めたカーディガンの編み直しが、あとは釦をつけるだけとなった。
 丁度いい大きさで陸っつ揃っている釦を探すと、木製に似せたようなものと黒い釦がみつかった。木製に似せたような釦は色が合わず、水性ニスを持ち出したが、色が付く筈もない。失敗したとわかり、油性マジックで塗ってみる。今度は失敗ではなかったものの、黒い釦とどちらがいいか決めかねてしまう。

 あとから想い直すとどうして自分はこうも時間を掛けるのだろうと想うけれど、しているときは俯瞰することなど忘れてしまう。
 それでも有限である時間は、あたしを急かすことなく、ただ待っている。

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