例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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素描


 家のどの窓からも雨が降るのが見え、雨音に耳を立てていると雨に閉じ込められてしまったようで、こんなときは意識して自分を解放してみたくなる。けれど、そう云う気持ちになるだけで、実際は何も変わらない。
 湿気が多く蒸している日は気持ちが悪くなる。軽い頭痛が壱日に何遍もあたしを床に近付ける。
 気分を変えるた為早い時間に風呂に入る。風呂からあがると、冷凍庫を漁り髪も乾かさず座椅子にもたれた。冷たければ何でもおいしい。グラスいっぱいに入れた氷に苦戦し飲むレモネードの向こう、漆月のままの暦がじっとあたしを見ていた。

 此処に来たのは冬だった。
 あれから毎日のように家の掃除や整理をしているのに、なかなか片付かない。敷物は切って小さくすれば燃えるゴミに出せると想い、鋏で切っていたらものの数分で指に豆ができた。然も気付かずにいたら皮が捲れてしまっていた。箒を持ってもすぐに豆をつくる。

 「ソーダ水の中を貨物船が通る。」荒井由実の歌の歌詞が此処に存在し、其の通りに時間が過ぎていく。
 水浅葱か薄柳の色を使い絵を書こうか、なんて頭の内で素描を繰り返す。新しい画用紙をしまった場所も憶えていないのに。

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誰も誰の


 可愛らしくて・・・、お喋りしてくれて・・・、好きなんです・・・、と言われれば悪い気はしない。前々回の面会で、うたって、と急に言ったのは、看護師さんと何か会話があってのことだったのだろうか。
 あたしの知らない母の時間が、やさしいものであればいい。

 帰りに大通りの途中にあるコンビニエンスストアに初めて寄ってみたところ、其処には飲食していい場所があった。リュックサックには財布が入ってなくレヂで慌てたがauペイで支払うことができ、アイスクリイムと記載のある棒アイスを席に着き食べる。
 自分程の齢になってコンビニエンスストアでひとりアイスクリイムを食べることはまず無いのかなとも想ったけれど、気にしない。こう云う場所で手足がふるえても、笑っていられる。誰も誰の事情を知らない。
 自分が知っていることで誰かにやさしくなれればいいと想った。

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ふとした瞬間


 ふとした瞬間が多くなった。思考が停止し眼の前にあるものが見えなくなる、そんなわずか壱秒程の時間。微かに彼の存在を感じる他には何も感じない。
 ふとした瞬間は何処か異なる次元への入り口ではないだろうか。自身の都合のいい時期と其れが重なれば、ふとした瞬間へあたしは入り込んでいくのかもしれない。
 欲を言えば、海を前にしたとき、緑がまぶしい日、雪の降る日、など好きな空間に身を置いているときにふとした瞬間がやってきてくれるといいなと想う。
 異なる次元へ移動することは言い替えれば死なのだろうが、丗半ばまで想っていた死とはだいぶ違う。此処から消えるのでもなく逃れるのでもなく遠くへ行くのでもなく、何も変わらないような気がする。ただ此処から移動先は見ることができず、同じように移動先からも此処は見えないように想う。但し全く見えないのでなく、ふとした瞬間眼の前に現れることがあり、一瞬で見えなくなるものなのではないだろうか。
 けれど、実際はどうだかわからない。全て此処で感じていることだから。
 昨日買った緑茶を淹れていると、父が「うまいのか?」と訊いてきた。緑色がきれいなお茶に夫の眼が笑っていた。其処にも此処と同じように時間が流れているのかはわからないが、同じように流れている時間もあることを感じている。

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緑茶を買いに


 明治に創業したと云う町のお茶屋を覘く。何代目になるのか、若い店主に迎えられ入った店に並んでいたのは、昔ながらの袋に入ったお茶と粉の入ったボトルに菓子にラテの小袋が収まった箱に店の特製らしい硝子に似せた急須が並ぶ。
 外観こそ昔のままだが、中は現在。木箱は見当たらなかった。みっつよっつの頃の記憶なので不確かだが、其の頃は匙の大きなものを木箱に入れお茶を掬い袋に入れ秤で重さを測っていたかと想う。尤もそう云う店が他にあったのかはわからないけれど。
 甘味を感じるお茶を選んでもらい、ついでに抹茶の入った饅頭を購入した。たぶん母は抹茶味に興味ないだろうが、父や夫はおいしければ悦んで食べることを知っている。あたしはあたしで好きな味は食べなくともなんとなくわかる。
 緑茶は出されれば飲むけれど、自分で淹れては飲まない。勿体ぶって使わずにいた底に純銅と記された急須で、そろそろお茶を淹れてみようかと想っている。
 あたしに緑茶の記憶はたいしてないけれど、父ならいろいろ持っているのかもしれない。其の前に抹茶味の饅頭を、と父と夫に手渡した。

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欠片


 木苺のジャムを混ぜ凍らせたヨーグルトがあっと言う間に無くなっていく。八月が近付いている。
 ひまわり、冒険者、八月の鯨、・・・と好きな映画を想い浮かべてはランブルフィッシュで止まるのは毎年のこと。パターソンは録画したテープさえないけれど、鴉の飼育とランブルフィッシュはVHSテープに残した筈だった。テープが残っていてももう観る術はないけれど、自分の記憶にしか残っていないのは少し淋しい。
 欠片があるだけでも満たされると知った夜。禁断の扉を開けるかのよう、冷蔵庫の扉をほんのちょっと開けては閉じる。真夜中の冷蔵庫が不思議な雰囲気をかもし出しているのには訳があるのだろうか。
 あたしの持つ冷蔵庫のずっと奥に見える南の島はふたつに分かれている。ひとつはバリの村、ひとつはゴーギャンの画。手前でふたつを見ているのが好きで、奥まで行ったことはない。其処が自分の場所だと想っている。
 今夜は冷蔵庫にギターピックを入れてみようかと想ったのに、いつの間にか眠ってしまっていた。

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