例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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願い事


 眼の前から消えるとだったか、眼に見えなくなるとだったか、次に続くのは心から消えてしまうだったか、正確にわからない言葉が捌時過ぎに頭を掠めていく。
 人の心は移ろう。自分が傷付いた意識がなければ尚更。当事者意識がなければ初めから関心がない。

 自分の場合は壱枚の寫眞。壱遍の映画。新聞だったかテレビだったかで知ったこと。
 普段溜息が出るような自分の性質を好きだと想えることもある。幾度も幾度も思い出す。幾度も幾度も見返す、考える。壱度衝撃を覚えたことはなかなか消えない。そう云うものが数多くあればいいと想う。けれど数が増す都度疲弊する。

 あたしが願ったことは、平和も含め利己の為に他を煩わす者がひとりもいなくなりますようにだった。

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裁縫箱


 バスタオルを弐枚用意し、頭と腕と裾になる部分を開け縫い合わせワンピース型の部屋着をこしらえる。これなら汗を掻いても気にしないで済むだろう。確かタオルで躯が痒くなったことは壱度もなかった筈だ。
 裁断することもなく、手縫いで直線に縫っただけの部屋着。表面が細かな凹凸のあるぽこぽこ生地は、粗い縫い方でも縫い目がわからない。
 袖を通すと細かな処が気になった。まずは襟ぐり。前は少し下げた方がよさそう。袖ぐりはもう少し閉じた方がよさそう。裾の脇は少し開けスリットにしたのでぎりぎり引き摺らない長さだけれど、どうしようか。

 考えつつ裁縫箱を整理する。ゴムや生地の切れ端をつい入れてしまう。
 長方形のクッキーの空き缶は裁縫箱にするに手頃な大きさだった。気に入ってずっと使っている。普通なら自分が持つことのない空色をしているけれど、蓋の中央のロゴの記された白く大きな肆角の意匠が、空色と他の小物とを調和させている。

 整理している間に、明日も裁縫箱を使うと愉しいだろうななどと想えてきて、部屋着は衣文掛けに掛けられることになった。

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朱夏


 B5サイズの雑記帳が何冊も入る縦長の手提げ袋が欲しかったので、引っ越し前に購入したのに壱度も使っていない。
 ただ部屋の隅に下げておくだけでも少し元気になる。猛暑だからなのか、午后から眠りにつくまでエアコンをつけっ放しにしているからなのか、一昨日は膝の違和感、昨日は足首を軽く捻り、今日は背中が痛い。たいてい壱日弐日で元に戻るが、毎日のように躯が重い。
 リトルミイが大きくプリントされている布製の赤い手提げ。素っ気無いようなものが好みと言いながら、カエルの人形を可愛がるのと、リトルミイの製品を欲しがるのはやめられない。欲しがっても購入することは滅多にないけれど。
 「屈しない。」そう口にすると、気持ちがやわらぐ。
 赤い色はあたしにやさしい。金魚、のうぜんかずら、カンナ、木苺、西瓜、桃、・・・。前を行くリトルミイのワンピースの裾があたしを呼ぶ夏。

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雨降り花


 何処にでも咲いていると想っていたのに、此の町で見ることのなかったひるがおがひとつだけ咲いているのをみつけた。摘んだら雨になると云うのは童話で読んで覚えたのだろうか。
 きつねの嫁入りの言い伝え然り、雨にまつわる話は口の中であまい菓子がほろっと崩れたときの感触に似ている。

 露草も見ないけれど、何処に行けば咲いているのだろう。
 しろつめ草、れんげ草、白いたんぽぽ、すみれ、きんぽうげ、ヒメジョオン、吾亦紅、女郎花、・・・。散々手折って猫の躯に飾っても無くなることのなかった或の庭。思い出すと口の中であまい菓子がほろっと崩れた。

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川景色


 橋を渡っていく。今朝の雨は遠くに行ってしまい、陽が射して暑い。買い物がてらちょっと散歩に、と想ったが、長い橋を下りて行く途中で引き返すことを決めてしまった。
 見ている方向や角度が異なるだけで、物の印象は変わってしまう。今日の川の景色がそうだった。引き返したときの川は、周りの草木の緑の濃淡が美しく、遠くには青い山も見え、川の色も青にも緑にも見えた。いつのまにか陽射しは消えていて、時折鳩が通行の邪魔をし、ひとりで彼是想いながら歩くのにうってつけだった。

 彼と自転車で走る道、陽射しを気にしながらあたしは幾度後ろを振り返ったろう。あっと想ったら自転車を止め、前籠に入れたカメラバッグから幾度カメラを取り出しただろう。逆光で見る景色が好きだった。
 土手を歩いたり橋を渡ったりしながら今のあたしは地平線を探すことが多くなった。カメラも持ち歩かない。逆光で見る景色は好きなまま、立ち止まることもしなくなった。

 光と影が薄れていく。川景色が息苦しい雲ひとつない青い空のように平板なものになろうとしている。そう想ったら耳の内に音楽を鳴らさずにはいられなくなった。
 「ぼくはどうしたらいいとかそんなことなんて知りたくない、だって見上げれば千のタンバリンが、・・・。」

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