例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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季節は繰り返しても


 朝の町にほんのひとときちらついた雪。
 膝掛けは亀に貸してしまったので、籠から新たに壱枚出すことにする。ラムズウール100パーセントと表示された其れを、何度か腰に捲き付けてライブを観に出掛けたりもした。
 此の冬は寒い。アルパカ入りの毛絲が残っていたけれど足りるかだろうか、と心配しつつセーターを編む気になっている。
 季節は繰り返しても少しづつ様子が違う。
 元は伯父のものだったと想われる黒いジャケットに腕を通し、ぼく、とつぶやく。髪を短く切って仔犬のようにはしゃいでみようかなどと想う冬。眼にしたもの全て笑えたらいいのに。スープカップにさえ悲しみを見てしまう。

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こんな日


 風呂あがり、冷たいヨーグルトがおいしい。
 廿時前だからと自身に言いわけし、チョコレイトをひと粒口に入れる。
 冬になり就寝時は早くなり起床時は遅くなったのに、昼寝までしてしまった。
 こんな日もあるよ、と蜜柑まで食べる。
 いっとうなかよしのカエルの人形と長い間抱きあった後、長い長い溜息をひとつ吐くとこんな日はどうでもいいことになった。

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静物と記憶


 壱年経っても先に進まない手紙は、便箋に折り目がたくさんついてしまった。作業場にしようと考えた弐階で、冬のやわらかな陽射しの中にただ立ち尽くす。
 押し入れを整理したり、棚をふたつ並べ其の上に板を置き作業台をこしらえ、壱階から机や電気ストーブを持ってきたのに、立ち尽くしていることの方が多い。

 カーテンを染める光や床に落ちた光。茶色になっても棄てずにいる紫陽花の乾燥花やハンガーラックに掛けたお気に入りの上着。何度も眼にしているものを今日も眼に入れる。そうして静物と呼吸を合わせてみる。
 動いていないからといい決して動いていないわけではないように想う。光を受け陰影を作ったり、色褪せ形を変えたり、其処には自分には聞こえないわからない言葉がある。彼らも自分と同じに記憶を残している気がする。
 ひとつでありひとりの個は、静物も自分も・・・。

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爪を切る。


 未だにベコニアはいっぱいの花を咲かせている。蔦は枯れているのに、中央に青が入っている白い朝顔もやはり花を咲かせたままでいる。スイートピーかと想われる紅色のひらひらとした花びらも元気なままで、季節がわからなくなる。
 お湯を使い洗い物をするようになった途端に、ぽろぽろと崩れていったあたしの爪との随分な違いに戸惑う。
 きれいだけれど、いつ彼らは休むのだろう。いったいいつ枯れるのだろう。

 面会に行き、来たよ、と声を掛ける傍から、気をつけて帰ってね、と返してくる母に、まだバスが来るまでに時間があるのと言い笑う。
 良くもならないけれど悪くもならない。それでも半年前に比べると躯は細くなった。

 気持ちとは裏腹にあたしの生もひたむきで、花々や母たちに並び時を往く。
 壱ミリも伸ばしておけない爪をぱちんと切ったあとではらはらと泣いた。

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積雪


 遅く起きた朝。屋根に雪が積もっていた。昨日夜になり降ってきた雪は、雨にならなかったらしい。何度も教えたのに、と彼の声が聞こえる。
 あれからもそう変わりない日常。

 編み終えた前身頃と後ろ身頃。合わせながら、このまま仕上げようかセーターにしようかと考える。
 正月だと言うのに、普段となんら変わりない生活。

 陽が昇り、勢いよく流れ始めた水の音。溶けていく雪。屋根の上は白椿を散らしたような状態に変わっていく。
 あたしが絶えても続いていく世界が、違和感のない真っ直ぐなものでありますよう。其れが特別なことでなく普通のこととして存在しますよう。

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