例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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クリスマス・カクタス


 緩衝材を切り鉢に捲き付け栄養剤を与え、夜は家に入れるようにすると、葉の色が悪くなっていたシャコバサボテンは弐日で緑色に染まってきた。
 父が亡くなり拾伍年、どの鉢も壱度も植え替えをしていないようで根が詰まっていた。参分の壱程度は植え替えできたが、シャコバサボテンは来春になってしまった。花芽はついたので此の冬も花は見られるだろう。クリスマスに開花しているかどうかは疑問だけれど。

 朝晩加湿器が音を立てるようになった部屋。
 鉢植えと亀たちとカエルの人形に彼の寫眞・・・と、皆でまるくなって眠る。大きな樅の樹にオーロラを瞼の裏に描きながら。

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足し算


 伍以上の数の足し算が未だにすぐにできない。まず拾にすることから考えてしまう。其の後で指を使うのだと彼が教えてくれたことを思い出し、眼の前に両手を出す。そうして答を導き出すと、今度は伍以上の数と伍以下の数の足し算で躓いてしまった。
 伍以下なのに指を立て計算しようとするので、答が伍多くなってしまうことに幾度がした後でやっと気付いた。

 壱度彼に自分がいつもしている仕方の足し算の数式を記して見せたところ、ややこしいとひと言返ってきた。壱度知人にも見せたことがあるが、ややこしくて答が出せないと言われたけれど、長い間そうしてきた癖が抜けない。

 何故家から消えてしまっているのか。父が使っていた大玉の算盤を想う。あれを使い壱から足し算を覚え直したかった。
 特に困ってはないものの、できないよりはできた方が愉しそう。できるようになったと想っていたのに、そうでなかったことにしょげてしまい、菓子をひとつだけ食べるところをふたつ食べてしまった。

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そう云う季節


 朝は目覚まし時計の鳴る時間まで眠っている。目覚めても布団の中でうとうとしたまますぐに起き出すことはない。部屋の中は暗く、冷たい空気が待っている。
 顔を洗うのに水だけでまだ平気だけれど、漆時半にならないと陽射しが窓を照らさない。息はまだ白くならないけれど、捌時半にならないと弐階の部屋が温かくならない。
 電気ストーブにブランケット、レッグウォーマー。両手で持ったスープカップを何処に置こうか迷う。床に座り電気ストーブの前で飲むのも悪くないから。

 悲しみに抉り取られた胸を彼への朝の挨拶で元に戻す。
 夜中にこっそり海へ行けるほど此処は海に近くない。窓を抜け波のようにこちらへ押し寄せてくる朝の光に足を浸し、潮騒を感じ、呼吸を整える。
 朝靄の中をまたふたりで歩きたいと想う。そう云う季節。
 そう云う季節、そう云う季節、と想っていると寒くなってきた朝もやさしいものになるけれど、あたしはやさしくなれず夜は亀たちを布団に入れず眠ってしまう。

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バターチキンカレー


 鶏肉と玉葱を炒め少量の水を入れルウを溶かした後牛乳を入れ、更にバターを入れ残っていたピザ用のチーズも入れると、辛さが消えた。
 店で食べたことがなく、バターチキンカレーがどう云うものなのかよくわかっていない。なんとなく食べたくなって市販のルウでこしらえたところ、辛くてオムレツを上に乗せたりして食べることになった。
 今日は半分残ったルウでまたこしらえることになったが、口に合う味になった。

 金曜日の夜は大抵残業があり、其の都度彼が連絡してきた。晩御飯要るようになったらカレーを作って、と。
 カレーは缶詰のタイカリー。イエローカリーだったりグリーンカリーだったり。鶏肉と茄子を炒め缶詰を加え温めればできるものだった。苦労はなかったけれど、自分がカレーを食べたいときはどうしても市販の温めてかけるだけのカレーになった。

 辛くないけれど昼食に食べるには此れもいいでしょう?、と彼に差し出す。
 是までしていたことを此の先することはないだろう。そう想うものがたくさんある。
 これからしていくことは幾つあるだろう。彼も是も始まりは彼と一緒だった。おそらく基本が変わることはない。

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大丈夫


 土手の道を走るときは頭が空になる。やっと病院と繋がる脇道がわかり、風を気にしながら自転車を出した。
 県道を飛ばす車に脅かされながら走る道のりが短くなったことが嬉しくて、歌が口を突く。niaカスタムGT400と名付けた白い自転車はもうないけれど、前を走る彼の姿をみつけるのに変わりない。
 速度をあげるほど、菜の花、鬼百合、葛、せいたかあわだち草、芒、・・・と壱度に全て眼の前に現れるので、坂道を下るときブレーキは掛けなかった。転んでも助けてくれる手は今はないのに、気持ちの方は或の頃より寄りかかっている気がする。

 大丈夫、と言うと何故か悲しくなるから、平気、と言っていたのに、此の頃大丈夫と言ってしまう。其れも壱日に何度もひとりごちている。
 自転車で転びそうになりながら、大丈夫。脇を追い抜いていく車に、大丈夫。
 頑張れも、頑張らなくていいも、自分らしくも、夢は叶うも、越えられない試練はないも、傷付いた方がやさしくなれるも、・・・全て嫌いな言葉。それに比べたらきっと大丈夫は苦しくない言葉なんだろう。

 大丈夫。大丈夫、あたしが倖せでありますよう。
 大丈夫だからね。大丈夫、と自身に向けてしか言わないけれど。

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