例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

忍者ブログ

頁を戻る頁を捲る

残っているもの


 汚されてしまったと想ったものを戻すべく、壱枚の着物を破棄する為にたたむ。おそらく贈ってくれた人の気持ちも変わってはいないだろう。そして、其れに関しあたしの気持ちも変わっていない。いつか染め直して、などど想っていたけれど、持っているのが辛くなってしまった。
 絶えず変化し続ける状況に想いは掬われそうになる。想いを守る為に棄てていくとき、身が切られそうになる痛みにただ泣くだけの今日の自分。

 明日か明後日にでも珈琲を買いに行かなくちゃ。玄関から和室の入り口に移した弐体のぬいぐるみに手を振る。
 新宿だったか銀座だったかのデパートで、昔彼に買って貰った。誕生日の贈り物としてだった。紐が付いているのでぬいぐるみでなく子供用のバッグなんだろうか。作りがしっかりしていて意匠も素敵で、今見ても可愛いなあと想う。
 古びて多少草臥れても、残っているものはみな美しい。

拍手

      郵便箱

頁を戻る頁を捲る

新たな秘密


 彼に届いた年賀状の処分をしているうち、気になる壱枚をみつけた。
 彼に対し相手が怒っているのは理解できたが、年頭の挨拶を考慮し言い替えはできなかったのだろうかと想い、シュレッダーに掛けずに脇に置いておいた。仕事上のつきあいだったと想われる相手は毎年欠かさず年賀状を出してくだすっていたが、壱年毎其の文面は和やかなものになり、お世話になっていますから仕事が終わり行く店を楽しみにしているになり、プロジェクトを一緒に頑張りましょうねにまでになっていた。
 入れ直しをしている葉書きファイルを抱え、彼に振り向く。あたしだけが知る秘密がまたできた。
 ひとつひとつ拾い何度も確認し処分を決めるのは時間が掛かるけれど、時々全く想いもつかない素敵なものがやってきてくれる。時間を掛けることや待つことを壱段と好むようになっている自分に笑う。

拍手

      郵便箱

頁を戻る頁を捲る

されど


 ずっと迷っていた彼に届いた年賀状の整理も始めた。
 彼の友人の年賀状は、××ちゃんによろしく、とあたしの名が記されているのでひと目で判る。彼の友人は愉しい人ばかりで、想い描くと明るく前向きな気持ちになる。あたしが自分の友人だと想っている人は、想い描くと穏やかな気持ちになる人ばかりだ。長く付き合ったとかお世話になったとか関係性とか、そう云うことはもうどうでもよくなり、とにかく気持ちよく想える人が心に留まっている。
 名前を見ただけで不快になる人は不快になるもので、彼に届いた年賀状だと想っても抜き取ってシュレッダーで処理してしまった。不快になるものは置いてはおかないよ、と彼の眼を真っ直ぐ見て声を掛ける。名前を聞いたことのない、おそらく仕事上のつきあいだった人の年賀状は一礼し同じくシュレッダーで処理した。
 たかが葉書き壱枚。されど浮かび上がってくるものがある。

 お茶の時間にしようと、先日購入した桃入りの紅茶の封を切る。あまい香りに想わず目を伏せる。お茶はあたしの壱番の贅沢。どちらにしようか迷い、桃入りの紅茶と黒すぐり入りの紅茶と両方購入した。
 過去は消せず、考えても自分は褒められた人間ではないと想うけれど、誰か訊ねてきたらおいしく淹れたお茶を出したいと想う。
 たかがお茶壱杯。されど気持ちよく帰っていただきたい。

拍手

      郵便箱

頁を戻る頁を捲る

名残りの夏


 悲しみは怒りや憎しみのように落ちても消えない。

 探し物がみつからないのだろうか。
 あたしを呼ぶ声を聞く。日々珈琲の匂いで満ちていた或の台所から。

 彼が選んだ胡桃の卓につくときは、気持ちが弾んでいるときか落ち着いているときで、卓につけば静寂の音がする。透明な高い音は、彼の声に重なる。

 台所の出窓には、相変わらず大きなたんぽぽが刺繍されたカーテンが下がっている。大きさが合わなかろうが、引っ越しても使い続ける気でいる。
 此の頃其の窓の奥に、のうぜんかずらの花を眼にするようになった。其の樹の下で遊んでいた弐匹の猫の姿はなくなったけれど、今も余韻に振り返る。

 大根の煮物も鰯の天麩羅もポテトサラダも、台所に張り付いたままだ。死ぬまであたしは此の光景を持っているだろう。
 台所へ決して持ち込むことのなかった怒り(彼や暮らしに対してでなかった為)。染みを作らなかった台所。珈琲カップに挿したとうがらしの花束が赤く縁取っている台所に、今朝炭酸水を落としてみた。

拍手

      郵便箱

頁を戻る頁を捲る

それきり



 洗濯をしてそれきり。時が止まった。

拍手

      郵便箱