例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

忍者ブログ

頁を戻る頁を捲る

買い物


 壊れるときは次々壊れるので厳しい顔になってしまう。CDラジカセから始まり、電気ポット、リトルミイの腕時計の電池、電動ミル、洗面所の電球。そして今日は電動歯ブラシにリトルミイの腕時計のバンド。
 職場が替わり通勤に弐時間近く掛かっても引っ越さない方がいいと彼が言ったほど、気付くと此処は不自由のない町になっていた。特に坂を上がった通りの向こうはまるで別世界。駅まで傘をささずに歩いて行けたり、或る程度店が揃っていて買い物するのには良かったり。それと人が多い。
 不思議なのは、人混みの方が人の匂いがしないことだ。自分の日常や生活と離れていることがそう想わせるのだろうか。それとも人を集団としか感じられなくなり、ひとりひとりの顔が見えなくなることにあるのだろうか。
 次の日曜日に珈琲豆が安くなる。電動歯ブラシと腕時計のバンドと一緒に買いに行こうかと想っているのだけれど、人の多さを考えると躊躇してしまう。実物を見ないと購入する気になれず、取り敢えずハンガーラックの棚から帽子を下ろした。

拍手

      郵便箱

頁を戻る頁を捲る

疑問形


 黄に染まった銀杏は葉を落とし始め、楓は真っ赤に染まり、駅周辺はクリスマスのイルミネーションで飾られるようになり、浮足立った人混みを目線を下げ通り抜ける。元々は然程そう云うものに興味はなかった。なのに毎年のようにカメラを手に笑って歩いていたのは、彼と一緒だからだったのだと想う。見に行かないの?、と言われることで知らず知らずのうちにいろいろ興味を持つことができた。
 見に行かないの?、食べないの?、買わないの?、・・・。そう訊かれ自分で決めて行動していた。人によって言い方で催促にしか聞こえない場合もあるが、彼の発し方は促して相手の答を待つやさしい言い方だった。

 転出証明書を取りに行った市役所の周りにはまだ薔薇が残っていた。撮らないの?、と彼に訊かれた気がして、アイフォンしか持ってないしと答えると、彼がスマートフォンを向けたのであたしは黙って其の様子を見ていた。

拍手

      郵便箱

頁を戻る頁を捲る

吟遊詩人の唄


 リアルタイムで聴いていた歌ばかりではなかった。なのに、拾代の自分を想ったり彼を想ったりして耳を傾けていた。
 曲で音楽を聴いているのでなく、自分は好みの演奏に耳が傾くのだと或るとき知って驚いたけれど、其処に好みの声と歌詞が合わさって、歌を好きになっているのかなと想う。

 初めて行く場所、最後のライブ。そう想っていたのに、引っ越し先からでも或る程度の会場に行けるのではないかと考えている自分がいた。
 弐時間躯を揺らしすっかり熱くなった手足と頬に師走の夜の冷たさが気持ちよく、寫眞なんて必要ないと想いカメラは鞄にしまったままにしておいた。

 師走になると時々思い出す。武道館までの坂道を。
 何をみつけたとして彷徨っている感覚はなくならないのかもしれない。
 彼と何度か一緒に行ったなと想った後、あっとなった。壱番ライブに行ったアーティストなのに彼以外と行ったことがない。瞬間ふたりは果ての無い箱に閉じ込められた。其処ですることと言えば何かを探し彷徨うことだった。

拍手

      郵便箱

頁を戻る頁を捲る

そわそわ


 今朝は捌時まで寝てしまった。上目づかいで彼におはようと声を掛けた後、珈琲を淹れる。美容院に行き疲れたらしい。けれど気分は悪くなかった。
 今日も掃除をし、昨日処分した炬燵の代わりにノートパソコンが乗るだけの小さな机を和室に置く。傍には電気ストーブ、膝には後でテレビを包む為に残した毛布を掛ける。そうして届いた書類を確認し、ゴミの日を確認する。
 正午アパートの管理会社から電話があり、立ち合いの日と時間が決まった。来週は最後の歯の治療に役所の手続きの予定を入れている。ホームセンターの優待セールもある。アイロン台がすごぶる汚くなっていて困っていた。明日は明日でライブに出掛ける。

 細々としたものがまだ残っていてそわそわした気持ちになり、落ち着かない。もうすぐ終わる。もうすぐ。
 呪文のようにもうすぐと唱えている。

拍手

      郵便箱

頁を戻る頁を捲る

最初で最後


 余裕がない状態になりつつあるのを感じつつ、美容院の扉を叩いた。最短でカットのみして貰える予約を訊ねると、本日の午后参時と言われ、迷わず予約する。
 やわらかで人当たりの良い雰囲気の美容師さんだと想っていると、是までカットして貰った美容師さんと接待が全く違っていた。勧められるのがあたしは好きでない。此方の要望を伝えるとすぐに理解してくれて、説明したうえでカットしてくれる。
 ひと通り終えた後、後ろは気に入って・・・、横ももう少し短くしてもらってもいいのかなあ、と伝えると横を切りつつ後ろの方を手で押さえ、たぶんこんなふうな感じをお望みではないかと、と的確な答を出してくる。
 髪を洗っても是までのように襟足は浮かず、まるい頭の形が嬉しかった。

 有名店に行かないと無理なのだろうかと想っていた。美容院に行くのがすっかり嫌になってしまっていたのに。
 嗚呼もう最後なのにと半分残念に想い、半分は最後に出逢えたことを心から嬉しく想った。

 一期一会。もう逢うことのない人たちの倖せをときどき想ったりする。

拍手

      郵便箱