例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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ひとりとひとりきりと


 テレビとブルーレイをやっと設置する気になりコードを繋ぐ。彼の繋いだ通りにしなければ、あたしはテレビも観ることができない。

 たまに連絡する友人がいても、其のこととひとりでないと云うことは違うことだと想う。暮らしが機能しているか否か。自分のひとりと云う感覚は其れに尽きる。

 眼の前から彼がいなくなりあたしはひとりになった。一緒に暮らしを進めてくれる人がいなくなった。どうしようもなくあたしはひとりになった。けれど、ひとりきりではない。彼と云う話し相手は今もあたしに存在している。
 ひとりとひとりきりとひとりぼっちとでは皆違うんだよね、と言うと長い髪をした彼が傍らで真剣に聞いていてくれた。

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海まで×キロ


 風がないので土手の方を歩いてみようかと想う。

 大通りを出て橋の方へ真っ直ぐ歩き、土手へ抜ける道を探す。バスの窓からいつも見ていたが、歩くのは初めてだった。橋の傍には櫻の樹木が並びベンチも設置されていた。マムシに注意の立て看板に壱瞬足が竦んだものの、傍らのセンダングサの群生に嬉しくなる。
 彼と自転車で走った或の土手にも或の土手にも似ている。誰もいない道、ひとり占めには廣すぎる空間。遠くに見える青い山並みを背に往けば海まで×キロと記された木柱が立っていて、想わず空を見上げる。息を吸うと、眼に映るもの全てを吸い込んだ感覚になった。

 彼と黙って歩いた土手の道を想い浮かべ暫く黙って歩いてはいたが、そのうち、あそこでお弁当を食べるのもいいねとか櫻が咲くころまた歩こうねとか、彼に話し掛けては応えに耳を澄ませ歩く。彼は彼で頻りに焼きそばと、明らかに期待する声を放っていた。
 海まで×キロ。其れはそのまま天国まで×キロと云う気がして胸が詰まった。

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あたしたちらしい



 台所と自室を分ける間仕切りは腰より上の高さ程で、高さのある書架や箪笥などの家具を置くと後ろに貼られたベニヤ板が気になった。上から杉の板や胡桃色に塗ったすのこを張ってみると、部屋に調和し違和感が消えた。更にサンキライのリースや籠に乾燥花を入れたものを吊るすと、自分らしい空間ができあがった。
 それをにこにこして見ている彼。しまいにはあたしのことなど忘れ、亀たちと遊んだりラジオを聞いたりしている。窓際に置く棚は決めてもいないから、あなたの荷を解くのはこれからでレコードもいつ聴けるようになるかわからないと言っても、ああと返ってくるだけ。
 好きにさせてくれると想っていると、突然亀を買ってきたり、大きな回転椅子を注文していたり、見に行くだけかと想っていたらギターを購入したり・・・。今も突然彼の物が増えるのではないかと疑っている。まあ、それもあたしたちの家らしいけれど。
 間仕切りの上にツリーの入った箱を置くと、彼も満足そうだった。

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眠気の残る中で


 眠くなるのは雑煮のせいだったのだろうか。
 年が明け参箇日毎日昼寝をせずにいられないのは、石油ストーブに因るものだとばかり想っていた。 彼も参箇日は眠そうで昼食をとることなく過ごしていた。
 今朝は石油ストーブのない家で雑煮をこしらえ食べたのに、急に眠気に襲われ動けなくなってしまった。

 気が付くと、丁度目覚めた彼の隣であたしは布団をあげていた。ふたりで炬燵を無くした話をしている。××ちゃんが無くしちゃうからと言われ、無くさない方が良かったと彼は想っているのだろうかと想いつつ、部屋が違うことに気付いた。以前住んでいた部屋のひとつ前のアパートの部屋だった。
 此処に戻ってどうするのだろう。此処ではないと彼に教えている間に夢から覚めた。

 今の場所で暮らすことに抵抗を感じているのは誰より自分なのに・・・。

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特別な日


 朝拾時にコンビニエンスストアへ向かう。悩んだ後で手に取ったのはふたつ入りの苺のミルフィーユだった。苺のアイスクリイムを好んだなあと想い、アイスクリイムにしようかとそこでまた悩んだけれど、アイスクリイムは次の機会にすることにした。
 彼と自分との理由なんて幾らだって作れてしまう。
 今日は特別な日。

 午后、近所の香取神社に参拝にあがる。
 祈ることは平和な日々、戦争のない世界。それと彼の倖せ。風がやさしい日が沢山あるといいな、と想う。

 帰宅し食べたミルフィーユは想った以上においしく、彼を祝うと胸は倖せで溢れた。

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