例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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いつのまにか


 毎日のように火災発生の町の放送が流れている。風の強い日、火の粉は何処まで飛ぶのだろう。其の都度鎮火の放送に安堵する。
 実際に焔が飛ぶ光景を眼にしたことはないけれど、真っ赤に染まった映像は悲しみと云うひと言では表せない。
 いつのまにか余りにも吹き荒れるようになっていた風。余りにも烈しく降るようになっていた雨。余りにもぎらぎらと照りつけるようになっていた太陽。
 抵抗の術も知らず、家の周りに棄てられた煙草の吸殻を拾う。其れを悲しみと呼びながら。

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カラフル


 日当たりのいい弐階の部屋に干した洗濯物は白と黒いものばかり。乾いてたたんだ洗濯物も白と黒いものばかり。
 母の入院後も春物、夏物、秋物、冬物と代わる代わるハンガーラックに掛けてきた。自分と違い多彩な母の衣服をどう並べて掛けようか考えてしまうこともあったけれど、母ならそういったことは全く気にしないだろう。自分の肆倍も伍倍もある衣服に想う。
 どれも勝手に着てもいいと言われたことを思い出し、ハンガーから壱枚外し躯に当てる。好きな麻の服とは言え、翡翠色の華やかなツーピースを自分が着ることはあるだろうか。
 持ち主不在の部屋は相変わらず色が溢れ、ちっともしんとなどしていない。

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黒く塗れ


 スタンリー・キューブリック監督の「フルメタル・ジャケット」をやっと観ることができた。他の知られた作品より、自分には壱番心に残ったものになった。最後にローリング・ストーンズの「Paint It Black」が流れるのも大きい。
 やりきれない感情がときどき表に出てくる。表に出てきたときは表現することを選んでいる。自分の場合、絵、寫眞、詩文、とだいだい其のみっつのうちのどれかになっているけれど、どれにもならないときは思い出した歌を口遊む。「If I look hard enough into the setting sun ・・・・・」
 此の頃歌を口遊むことが多くなった。

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場の雰囲気


 病院へ面会に行った夜は必ず疲労するようになった。冬の寒さがそうさせるのだろうか。

 夜中に目が覚めた。長い夢を見ていた。
 いつものことだが母が説明もせずあたしに頼んだとひと言告げ出掛けてしまう。扉を開けると、大勢の人が部屋の中に座っていた。若い頃ならおろおろして此処で目が覚めただろう。
 特におろおろすることもなく、本来なら対応する者が出掛けてしまったことや自分が対応できる範囲を説明したあと謝罪すると、誰一人怒ることもなく部屋を出ていく者もいなかった。対応を始めると向かって右端に座っていたグループで来ていたらしい女性たちから「大丈夫よ。」だの「あたしたち急いでないもの。」だのと声が掛かった。そのうちのひとりが有名な菓子店の名をあげ「券を持っているからあげる。」と言う。
 何故と想いながらも安堵したのだろう。笑うと「私も持っているからあげる。」と別の女性からも声が掛かった。
 途中で目が覚めてしまったけれど、彼女たちの御蔭でおそらく最後までやり遂げられたのではないかと想う。

 場の空気に強く反応してしまう自分は、場の雰囲気を良くする人に助けられる。ありがとうと言った傍から熟睡してしまっていた。
 夢で見た人。顔もはっきり憶えてなく、名も知らぬ人。けれど、何処かに存在している。

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キャンディー


 吹きつける風、千切れた青空にシャッターを下ろす。陽射しは消され顔の見えなくなった亀が無邪気に這いまわる。
 あちら側とこちら側。薄い幕によって別れた世界。それだけのことなのに其の差は大きく、こちら側に来れたことに対し感謝の気持ちが生まれる。けれど何に対しどう表したらいいかわからないから、棚の上にキャンディーをひとつ置いた。
 想うのは、ライ麦畑から続く崖、孤独に光る灯台、海の上を渡る無数の鳥。夥しい数の不運と夥しい数の幸運が風に舞っている。

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