例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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檸檬


其々の鍵で同じ扉を開ける
珈琲の匂いと流れる音楽
窓辺にはガジュマルの鉢植え

此処には森や海があふれている
弐足の靴に弐本の歯ブラシ
星の下には壱枚の毛布

疑いを口にしてしまったら
呆れた声で叱って

みずみずしくて酸っぱい傍らの光
きみが教えてくれた果実
きみが教えてくれたきみ


其々の鍵で同じ家に帰る
細い腕が水飛沫をつくる
汚れては荒い息をととのえる

悲しい日は昨日手折ってきた
野薔薇の実を捲いて

開けた窓の向こう雲が流れ
静かに語られる夢

なぐさめるよう遠くまで放られた檸檬
きみが見せてくれた果実
きみの持つまぶしい光

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      郵便箱


 少しくらいと想う心は伝わる。
 少しくらいと想う心は不快。
 そう云うとき、またさっと棘を出せるようになった自分。
 此れ以上近付かないでください。
 それくらいでと想う心も伝わる。
 それくらいでと想う心も不快。

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      郵便箱

小さな願い


 早朝眠っていることが多くなったが、たまに目覚めてそう冷えていないことがわかると起き出したりもする。
 朝の弱い光、車も人通りも無い静かな脇道、周りを囲む樹木。知らない道を自転車で走るのは愉しい。其れが以前は鬱蒼とした森だったと想われる道なら尚更。

 花なのか、実が割れたのか、点々とした赤い色に自転車を止める。手を伸ばした後ではっとなり元に戻す。有毒と云うことも否定できない。それでもみつめていると、晩秋の朝の空気の冷たさにこわばっていた頬も手の指もゆるんでくる。

 薔薇の実、南天、ノブドウ、・・・。此の季節に見られる筈の実に出逢えていないのが淋しい。ピラカンサス、ペッパーベリー、サンキライ、・・・。どれほど実の生った枝を部屋に置いても飽きることなく、増える毎落ち着いた空間になるのは何故だろう。
 昔から植物に助けられていたように想うが、彼らには人に及ばぬ計り知れぬ力が存在しているのだろうか。存在するなら、あたしにも分け与えてくれるなんてやさしい子だと想わずにいられない。いつかあたしも土塊となるのなら、此の身を植物に使って欲しい。

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      郵便箱

柚子の砂糖漬け


 煮てジャムにした方が長持ちするのだろうが、いつも傷む前になくなってしまうしと想い今回も砂糖漬けをこしらえる。それにとろける食感より歯ごたえを残した食感が好み。
 皮を剥き細切りにし、袋から実を取り出すと、台所に拡がる柚子の匂い。柑橘類の匂いはあたしを倖せにしてくれる。
 酒のつまみに出したら、いつのまにか彼も此の砂糖漬けを愉しみにするようになっていた。
 今年も柚子を手に入れられたよ、と小皿に盛った砂糖漬けを彼に持っていく。ひとりでに笑顔になっているのがわかる。結構あたし倖せをたくさん持っているかもしれない、と想うとふふっと声を出してまで笑っていた。

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      郵便箱

霧の朝


 すぐそこの信号の先が見えない。靄と言うより此れは霧・・・と立ち尽くす。
 カーテンを開け掃き出し窓から覗くと表が白くなっていたので外に出てみたはいいけれど、壱歩も動けない。早朝だしこれほど深い霧なら車両はライトをつけ走っているだろうが、今朝は歩き廻るより想像する方が愉しかった。
 ティム・バートンの或の壱番好きな映画を想う。悲しくて美しい物語。異形とも言える人物。此処に存在するのは佰人だとして、佰人ひとりぼっちがいてもひとりぼっちはひとりぼっち。佰人異形がいても異形は異形。
 霧の中でひとり踊る。「ぼく」は今どんな人間になっているのだろう。見なくてもいいものを気にしてしまう眼。見えた方がいいものが見え辛い眼。佰人の内のひとりと云う見方をやめてしまった「ぼく」。
 菊の花につられたのか、やってきたアブがあたしを邪魔だと言うように騒ぐので、霧が消える前に家の中へ戻ることにした。

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