例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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取り敢えず


 窓の下の部分についているのは下枠と言うのだろうか。太さ捌センチばかりの板に紙ヤスリを掛けていく。弐階の窓は全部で陸つ。綺麗にするまで壱週間見ればよいだろうか。
 表面がざらざらしているのがずっと気になっていた。玄関の上がり口に弐段になってついている板もざらざらで、仕方なくマットを置いている。ヤスリを掛けただけで滑らかになるなら、初めからそうしてと想うのだが・・・。

 壱度目の改装時に床を上げたとき、母が塞いで欲しいと言った扉を勝手口があった方がいいと塞がず手前に段をつけて処理されたが、慣れない頃夜中にあたしは其処に落ちた。それとトイレの位置とで支払いのとき大工と揉めたのだと想っていたが、縁側の板の処理など見ると細かい部分で母が気に入らなかったことがよくわかる。
 結局勝手口は壱度も使われることなく弐度目の改装で塞がれ、台所に新たに勝手口をつけてもらったが、或る程度の広さがあるので使いやすく不満はない。

 取り敢えずはあくまで取り敢えずでしかなく、再度考えることがなければ初めから取り敢えずなんてものは要らない。
 右手の怪我がまだ治ってないのだけれど、と言いながら自分なりにあちこち此の家を直している。古くなったのなら仕様がないがそうでない部分もあり、少しだけ腹を立てながら。

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このまま


 親戚宅へ出向くので御仏前の袋を用意してと彼が言う。其の際名前に気をつけてと言われ、あたしの名でなく彼の名を書いてくれと言っているのだとわかった。極壱部以外親戚の者に彼のことはまだ伏せたままでいる。
 あたしも彼自身も彼が現在どう云う状態なのか理解している。そのうえであたしが今も彼と暮らしている感覚でいるように、彼もまたそうなのかと想う。

 夢から醒め、例え夢でも彼もそうであるなら、髪が真っ白になり歩行がしっかりしなくなるまで生きていてもいいかなと想った。

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混沌


 日常について考える。
 確かに以前と異なる日々を送り過ごし辛さはあるが、非日常的なものは感じておらず、彼と過ごした日々が落ち着いていただけで、気付けば幼少の折から周りに感じている不穏なものや足元が壱センチ浮いていたり絶えず光と影のようなものが眼の前を交錯している感覚など混沌としたものが存在するのに変わりない。何も考えこむ必要はなかったのだ。

 菜の花のはなびらは毎日床に落ちる。人の日々に似ているなと想う。
 けれど、間近で彼の死をみつめていたのに、自分のこととなるとわからない。毎日毎日自分もあんなふうにはなびらを落としているのだろうか。
 昨日と同じようでいて違う壱日。なのに些細なことなど気にも留めず壱日を昨日と同じに今日と呼ぶ。そんなにも軽いあたしの日々。日常と云う言葉が眼の前を行ったり来たりしている。

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ひとりの時間


 熱はないものの昨夜から母は咳を出すようになった。デイサービスを休む電話を入れ、クリニックに薬を出して貰うよう電話を入れる。
 思いがけず午前が埋まってしまい、昼食を食べた後で急いで昨日指定された書類を作り簡易書留で送ろうと玄関を出ると、丁度出くわした隣家の人に声を掛けられた。そこで参日前に奥さんが亡くなったと知らされた。自分と変わりない齢。普通にしていらっしゃるが、ダンナさんはどんな気持ちだろう。ダンナさんと一緒に暮らしている奥さんのおとうさんはどんな気持ちでいるだろう。

 日々は慌ただしく、処理しきれない気持ちが溜まっていく。
 ひとりの時間があればあるほど泣く時間も思考の停止も増すけれど、静かな気持ちになる時間も増す。たいした刺激も受けず、淡々とした日々が暫く続いてくれるようにと願ってしまう。
 (日記を記す時間は結構しっかりして落ち着いた自分でいると想っていたのに、先日読み返してみたら言い回しがわけのわからないことになっていて少々へこんだ。)

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雪景色


 昨晩はよく眠れたらしい。目覚めて外の様子を窺うと辺りは白く染まっていた。着替えて弐階に上がり窓を開けると屋根に雪が積もってはいたが、雪は小雨に変わり眼の前の駐車場に雪は見当たらなかった。
 夜更かしの彼がいればあたしはカメラを抱えひとりで夜更けに家を出て、小さな雪だるまを手にし帰宅しただろう。其れを得意気に彼に見せたあと亀たちにプレゼントしようとして止められるのが、雪の日のお決まりだった。
 壱階に戻り寫した雪景色を彼に見せる。雪だるまはない。シャーベット状になってしまったよ、と言い亀たちに朝の挨拶をしようとすると彼らはまだ眠りの中にいた。
 静かな朝。エアコンの音と湯が沸く音が部屋に響いている。菜の花のきいろが眼にやさしい。

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