例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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他愛ない夢


 背に彼の感触を覚える。起きる時間だと想い布団から出るが、眼が開かない。○○ちゃん眠い眠い、と子供をあやすような彼の声が耳に届く。
 なんとか眼を開き隣りの部屋に行き、散らかった部屋を片付ける。一緒になり片付けていた彼が何を想ったのか押し入れから敷き布団を出し拡げるので、何してるの?と訊くと、間違えたと云う顔をしたのでくすくす笑う。それでやっとちゃんと眼が開いた。
 其処は壱番長く住んだ部屋だった。(の割には愛着がない。)
 台所に行きお湯を沸かしパンを焼こうとすると、〇〇ちゃんごめんね、と隣りの部屋から声がする。覗きに行くと、彼はクローゼットの前に座っていた。昨晩飲んでスーツを汚してきたようだった。
 外は雨。今日彼には出掛ける予定がある。クリーニングはあたしが出しにいかなければいけない。大丈夫、と言いながら夢から覚めた。

 部屋の中は仄暗かった。時計の針が見えない。たぶん肆時くらいになっているだろう。
 他愛ない夢。そう云うのがいいと素敵だと想い、また眠ってしまう。

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湿度


 朝から気持ちが悪い。幾らかふらふらするものの、頭痛は起きていない。暑いと言えば暑いが、それほどでもないのに変な汗を搔いている。湿度に躯がついていけなくなっているのだと判り、エアコンを除湿運転させ、いつ飲もうか愉しみにしていた葡萄ジュースを飲む。
 水分補給に黴や花瓶の水替えはこまめに気にしているのに、湿度が自分に与える影響は忘れてしまう。
 トイレに浴室、洗面所に続く引き戸の奥左側に、改装の際背丈ほどの衝立を作ってもらった。もたれるのに丁度良く、頬を寄せ気分を落ち着くまで眼を閉じていた。

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物の場所


 見慣れない花をまた土手にみつける。きいろく秋桜のような花だが中央が赤い。毒はなく、育ててはいけない植物でないとわかり安堵する。観葉植物として持ち込まれたものが自生するようになったらしいが、そう云った植物が多く不安になる。
 此処で育ち増えたことをたくましいと想う者がいれば、自分のように悲しいと想う者もいるだろう。其処でいいのかと、此処でいいのかと、尋ねずにいられない自分の方が悲しいのではないかと想いつつも、物の場所が気になってしまう。
 或の人がいた空間はしっくりしていて、あたしの問いはたまにでしかなかったのに・・・。とまた彼を想っている。

 書架から「ぼくを探しに」を取り出す。
 訳者のあとがきを読むと、そういうこと(自身の足りない何かを探すこと)をある時期に卒業して大人になるのが普通・・・、(割愛)、・・・(自身の足りない何かを探し続けることは)特殊な人間に限られる、とある。初めて此れを読んだときは唖然とした。今もまいったなとしか言えない。
 自身が不完全な個体であると云う概念は、自分から消えない。其れは完全を求めるものでなく、目線を他に向ける扉であり、あたしは今日も物に問うている。

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忘れてしまった


 レコードやCDの購入の仕方を忘れてしまった。
 タワーレコードでローリング・ストーンズの新作が輸入盤しか扱っていなとわかってから数日経っている。他の店で予約をし事無きを得たけれど、いつから店舗で購入できなくなったのだろうと考えると、拾年前かと想う。発売日当日に店舗に行きローリング・ストーンズの新作が置いてなく、発売日を間違えたのだろうかと想ったらそうでなかったことにがっかりしたことを思い出す。
 目当てのものがはっきりしていても、沢山並んでいるところから眼でみつけ腕を伸ばし指でふれ取り出すときの高揚感は、今ではなかなか得られないものになった。
 購入の仕方を忘れてしまっても、みつけ出したときの感覚を憶えている。
 林檎が入っているような木箱でも購入し、家にあるレコードを入れ気分だけでも浸ってみようか検討中。

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いつもと違う週末に


 ホットケーキミックスの粉でこしらえた紅茶味のスコーンは、壱日経ちほどよい硬さになった。アボカドにチーズにハムに人参のラぺに玉葱の酢漬けにズッキーニの塩もみに・・・、とどんどんボウルに入れてサラダにする。ミルの調節のゆるみを直した筈がうまくできず、今朝はすごぶる細挽きの珈琲になってしまった。
 時折さっと降ってきては、すぐに止んでしまう雨。乾燥花になったと想った紫陽花が、湿気を含みやわらかくなっていた。瓶から取り出し、結わえてまた吊るすことにする。
 昨日から着たきりの墨色の上下。濃くて苦い珈琲は彼の淹れる味。くつろぐことがなかなかできないけれど、いつもと違う週末にハローと手を振っておいた。

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