例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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玄関の飾り


 自室に飾ろうと想い作ったリースは改めて見ると結構な大きさで、自室に似合わない気がし両手で持ち家の中をうろうろする。最終的に玄関の壁に掛けた。
 巻き尺を当て丗で指が止まった。直径丗センチのアカシアのリース。そこに見るのは彼に繋がるいろいろなこと。輪の内側から聞こえてくる波の音、鳥の声。潮の匂い、森の息吹。芥子の赤い色、彼の肩に掛かったギターケースの黒い色。其処で動き出した彼。話し始めた彼。
 拾年前も廿年前も昨日も、そして明日も其処に存在している。見えるのはベンチに腰を掛け靴紐をしめ直す彼。帽子を取りに行ったあたしをまた待っているんだろう。
 倖せがひとつふえたとあたしは笑う。

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袖をたくしあげる日々


 母のベッドを隣りの和室に移動させたことで、新たに母の部屋(寝室)ができ、母の部屋兼客室だったところは居間に変わりつつある。試しに居間にかわりつつある部屋で過ごしてみると居心地は悪くなく、家具の配置や持ってくる物を考えこのまま居間に変えようと想う。
 家を処分しアパートの小さな部屋で暮らすことなど全く想ってなく、自分には廣いだろう家を無駄なく使うことを想像する方が愉しいし、其の方が現実的だ。
 雨の日とは言え炬燵に入ったきり出てこない亀たちを引っ張り出し、家の中を散歩させる。彼らが入り込む危険のある隙間を作らないのもだいじなこと。

 することは何故こうも後から後から湧いてくるのだろう。
 片付きそうで片付かない弐階の部屋。未だに仕上がらないカーディガン。いまいちすっきりしない引き出しの中。・・・。外で働いてないだけ時間はあると想うのに、日々いろいろなことを翌日に残しながら暮らしている。
 完成させることの難しさにときどき溜息をついては、其の都度服の袖をたくしあげる日々。

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アマリリスの植え替え


 壱度も植え替えされることなく育った植物たちは、限界に来ていたらしい。鉢植えの中でアマリリスは拡げた根を絡ませほどけない状態になっていた。このままでもだめになるならと、根が傷むのをあきらめ力づくで株をよっつに分け植え替えた。
 よっつとも育っていくのかそうでないのか・・・。今はここまで育ってきたことを称賛しよう。
 太く長い根と其れが絡まった姿はアマリリスの美しい生命力。土の下に戻った其の根をいつまでもあたしは憶えているだろう。

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ひと晩で


 今日から春です、と言わんばかりに、ハナニラはぽんぽん咲き、亀は水を汚し今年初めて餌を強請った。咽が異様に乾き檸檬水をごくごく飲んだり、朝もエアコンを使わなかったり、久し振りに外に布団を干したり。白のカットソーを探したり、ストールを拡げたり。
 ひと晩で変わった季節。ハンガーラックにはジーンジャケットを掛けた。
 毎年亀に教えられる春。水の温度が変わっていたことに気付き、風呂の設定温度を下げた。

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墓参り


 持っていく花は、周りが鮮やかなオレンヂ色をしたきいろのカーネイションにした。石に刻まれた名を見ても、線香を供えても、やはり父や夫が眠っているとは想えず、そそくさと寺を後にする。
 なんとかしていくのが生きている者だけれど、いったいいつまで此の長い距離を走れるだろう。傍らにはホトケノザ、なずな、レンギョウ、こぶし、・・・。其の都度自転車の速度を落とす。タクシーを使っても此の景色を見ることはできるのだろうか。どうせなら見たもの全て届けたい。
 ただいま。そう言って冷蔵庫からとっておきの木苺と苺の入ったアイスクリイムをとり仏壇の前に立つ。どうせなら見てきたもの全て渡したい。

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