窓
2026, May 18
浴室の窓を開ける。弐階の窓を開ける。客間の窓を開ける。台所の窓を開ける。自室の窓を開ける。あたしは窓を開けることができる。躊躇うこともなく、ごく自然に。
開けた窓を不快に感じることもなく、気にとられることもなく、あたしは壱日を過ごすことができる。電話帳を見ることもなく、便箋や切手の入った箱を引き出すことさえやめてしまっても、あたしは窓を開けることはできる。
余り音楽を聴かなくなり、余り映画も観なくなり、余り文庫本も開かなくなったけれど、全くと云うことはなく、ときどきしては泣く、できると言っては泣く。そしてひとりでも笑う。彼とは話す。自然に話しかけることができる。夜も彼に声をかければ恐くない。
窓辺に立ち窓の外を覗く。紙とペンと言葉があってよかったと想う。暫く風邪さえひかず伏せることもなく、欠かさずに書いてきた日記はあたしの窓。小さな小さな窓。泣きながらでも躊躇うことなく開けてきた窓。
窓しか見えなくても、窓の奥には人の存在。誰かの手により開けられた窓。声にならなくても、其処に誰かの声、あたしの声。窓、窓、窓、・・・、あちこちで窓が開く。聞こえなくても、耳の内で響き渡る窓の音。あたしも窓を開けることができる。