例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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今年初めての半袖


 今年初めての半袖、サスペンダーの付いた綿のやわらかなカーゴパンツ、合皮の白い紐靴。右に深紅とうす紅色の芍薬の入った花束、左に今朝掘りたてとシールの貼られた筍を抱え歩く。
 帰ったら窓と採風ドアを開け空気が通るようしよう。それから保温鍋で筍を茹で、スリッパは中底が竹でできているものと替えて(履かないかもしれないが)、珈琲はアイス珈琲にして、アレルギー疾患の薬も飲んで、・・・。

 昨夜眠れなくなったことが何処か遠くへ去っていく。
 辛い夏の始まりもあった筈なのに、此処にはただ曲がったあたしの脚があるだけ。傷痕は消えない。起こったことは無にならない。けれど向こう岸に追いやることはできる。
 蓮の花を見ることはさすがに無理だろうか、と彼と眺めた大きな池を想い浮かべる。昼間なのに向こう岸は雷空が拡がっていてとても暗い。こちらはこんなにも明るいのに。

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境界



 母の冬物をしまい、春夏の衣類をハンガーラックふたつに掛けても収まり切れず、大きな籠もふたつ使った。自分の伍、陸倍あろう衣類。そして衣装ケースに入った下着は廿倍はあろうに、手前の肆、伍枚しか着ない様子。あたしは母のすることがわからない。
 壱日掛かってしまい、外へ出した亀たちを戻したのは拾捌時近くになった。キャベツの外側の真っ青なをざく切りにしオリーブ油を使いフライパンで蒸し焼きにする間、青い麦の穂を束ね窓辺に吊るした。おそらく母はあたしのすることがわからない。

 そこまできついことを言うか、と云うくらいのことを何度か言ったら難癖をつけるのをやめてくれた母。
 境界がしっかり存在する関係があたしは好きだ。わからないことはわからないままでいい。

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亀と彼と


 注文した亀の餌が届き安堵する。
 小さな方の亀用の餌は近所の店でみつかったけれど、大きな方の亀用の餌は此の町で見ない。引っ越し前によく利用していた店に注文したところ、季節が終わってしまったからなのかなかなか入荷せず、キャンセルするしかなかった。
 今回インターネットを利用したが参袋買うと値引きされるので陸袋注文し、彼に手に入れられたことを報告すると、数に驚いたあとで素敵だねと幸せだねと繰り返し言葉を放っていた。

 支払いは、いつのまにかアイフォンに入っていたauペイとポイントを使った。auペイでキャッシュバック云々と言われたのは去年のこと。カードを持っているものの使えるようにしていない。通知が来たら直接店に行き教えて貰えばいいと放っておいた。
 よくわからないけれど自分にも支払いができたことを彼に伝えると、よかったねと返ってきた。

 彼とは喧嘩も沢山したと想っていた。それなのに考えてみれば何気なく過ごしていた時間の方が圧倒的に多く、喧嘩したのは其の何佰分の壱とかそんなもので、今となっては中身を細かに憶えていない。
 大きな方の亀はあなたが勝手に買ってきちゃった亀さんだからこれからもよろしくね、最後まで見守ってね、と言うと曖昧な返事しかない。見ると彼はほろ酔い加減でにこにこしている。仕様がないなと言いながら、横であたしも珈琲を飲んだ。

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デニムの作業着


 春になり家の中で羽織るものがみつからず、冬の上着が脱げなかった。
 引き出しを開けみつけたのはジーンジャケット。だんだんと着ることが少なくなっていたけれど、アパートや借家に住んでいたのと違い、シャッターがついていたり猫の額ほどとは言え庭があったりと家の中だけでは済まない暮らしに厚手のデニムは似合いそうだ。
 昔、彼から貰ったデニムのシャツも、彼のリーバイスのジーンジャケットも此処へ持ってきた。胸が少し弾んでいる。最後になったオレンヂを食べて頬に手を当てる。バッグにしようと想って残したオーバーオールもまだ着ることにしよう。
 割烹着もいいけれど、デニムの作業着もなかなかだと想う。袖を折れば洗い物も問題なさそう。
 硝子ポットの中には、黒すぐりとブルーベリィの実の入ったあまい味のする紅茶が。草むしりを終えたあとのお茶の時間。

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アマリリス


 アマリリスが開花した朝、いとこから電話をもらう。
 母の面会に行くと、帰り際やっと目覚めた母があたしを見て嬉しそうに笑った。××ちゃんから心配する電話があったと伝えるとやはり嬉しそうに笑ったあとで、××は、とはっきりした声で名を口にした。其のあとは何を言っているか聞き取れなかったけれど、彼のやさしさを口にしたのだろう。

 昨夜も録り溜めしてあったビデオからひとつ観た。
 家族、と云う言葉を口にしていた主人公。言葉と行動が合わさっていた彼女。

 電話壱本あるのとないのでは雲泥の差。
 紙一重と言うが、紙一重も余りにも大きいと感じる。

 まだちいさな莟のひとつもきれいに咲いてくれるよう。今朝も水遣りが欠かせない。

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