例えば秘密のノートに記すように。

       cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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すもももも・・・


 玖月か拾月にと考えていたけれど東京の様子と隣の区との様子を見合わせ帰省を決めた。壱月の半ばから出歩くのをやめてしまった自分がびくびくしながら参月に帰省したことを憶えている。母の方で嫌でなければと一応ことわりを入れたとき、変わらない声に互いに悪い夢を見ていないことを知った。たまに母とは夢で連鎖する。霊感の強い知り合いがいて何度か其の人に夢で見たからと心配されたことがあるけれど、あたしの方は壱度も其の人を其の類の夢に見たことはない。
 何の根拠があるわけでなく、自分の住む県で最初に感染するのも亡くなるのも自分だと想っていた。そうでないと知ると今度は帰省できず別れをせず亡くなっていくことを想った。自分の身に起こらないと想う人の方が圧倒的に多いと聞いているけれど、あたしはそうでない。あと壱度ライブに行けたらと云う想いこそ強いけれど、覚悟の方も考えている。帰省したら、生きることを素晴らしいと想いたいと心から想えたことやここで絶えても悔しさも悲しさもないと想っていることを父の前だけでも話しておこうか。

 咽の乾き、線香の匂い、熟れ過ぎた果実、すえた御飯、蟻の行列、立ちくらみ、のうぜんかずらの朱い色・・・。梅雨が明ければ影が濃くなる。夏の匂いが死の匂いを連れてくる。冬のようにあちこち潜んでいるでなく、夏はどうしてあんなにも姿を曝け出そうとするのだろう。
 昨日家族が買ってきたすももはふたつを除き硬く酸っぱかった。今年は夏がないよ、と言われたとき吐き気がした。死にたいと是まで幾度あたしは呟いただろう。其の都度躯の内側を撫でる歌が胸や手の指から零れ落ちる。発狂と言うには程遠い形で椅子に座り軒下でおとなしく日光浴をしている亀たちを眺めていたら、人の過ちや愚かさに襲われ、眼を閉じてしまうと、歌に撫でられた。毎日は其の繰り返し。ゆれて、呼吸をする、自分・・・。すもももも、。其処でもう噛んだ。
 低空飛行のヘリコプターの音が今日も神経を逆なでる。
 すももは弐、参日冷蔵庫に入れず台所に転がしておくことにしよう。あまくなるかどうかわからないけれど、やわらかく真っ赤にはなるだろう。それから自分のことも暫くすももと同じに。
 ヘリコプター、消えて。

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